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*20 甘く熟れた果物よりも
三度目になる口付けは、この前の雨の日よりも互いを求め貪るキスだった。
僕を覆うように重なってくる密の影は大きく、圧し掛かってくる身体はゆったりと体温をあげている。もっと、より近くに……そう訴えるように抱き寄せると、応えるように大きな手が僕の体を撫でる。
「ン、ンぅ……っふ、っはぁ」
息継ぎをするように時々数センチもないほどに唇を離すのだけれど、その間も惜しむように僕らは互いを食べ合う。肌の上を探るように触れながら、やがて密の指先が僕の胸元に触れた。
触れられたそこは指先で軽く突かれながら存在を露わにしていき、それから熱い指先でこねるように弄られる。弾くように焦らすように密は僕の体温をあげていく。
そっと僕が密のお腹の辺りに指先を滑らせると、硬くたくましい腹筋に行き当たる。身体を使うバイト三昧で鍛えられたのであろう肉体の感触に僕の中の欲情が煽られる。
お腹の上で指先を滑らせながら密のキスを受け止めていたら、その手を掴まれぐっとした――下腹部の方へ導かれた。導かれた先には、腹筋よりも硬く滾った屹立が。
「あッ……」
屹立の熱さに僕が手を停めると、口付けていた密が少し離れてゆったりと微笑む。
「薫さんが欲しいから、もうこうなっちゃった」
「密、アツい……」
「うん、だからもっと、アツくしてよ。俺も、薫さんアツくしてあげる」
その言葉を合図にするように、僕も密も互いの服を引き剥がし始めた。果物の皮をむいていくように手際よく、だけどどこかもどかしく。
邪魔なものがないそのままの姿をさらし合うと、一気に甘い熟れたにおいが強まる。引き合うように抱きしめるとそのにおいが嗅覚をより刺激していく。刺激された嗅覚が捕えるのは、それは僕が本能で求めている熱であるということだ。
裸のままで抱き合いながら再び口付け、それもやがて少しずつずれて場所を変えていく。唇から頬へ、耳元へ。外耳の輪郭をなぞり、穴へ舌が挿し込まれるとぞくりとする感触に思わず声が漏れる。
「あ、っはぁ!」
喉を反らして密を感じると、彼は嬉しそうに耳たぶを甘く咬んできた。「かわいい、薫さん」と囁かれた声さえも僕を痺れさせる。
耳たぶをなぞった舌先はそれからうなじと首筋、喉元へと下っていく。たっぷりの唾液で着いた道筋はさながら蜜色の軌跡だ。
愛撫されて悶えながらも、僕もなんとか密を熱くしようと彼の屹立に触れる。いままでに肌を重ねてきた誰のものよりも硬度と存在感のあるそれは、いま薄っすらと先走りを零していた。
手のひらで包み込むように撫でつつゆっくりと扱き始めると、密の腰が合わせるように揺れ始める。気持ち良いのだろうかと確かめるように目を向けると、懐っこい垂れた目がよりとろけそうな顔をしていた。
「密、気持ちいい?」
「すっげぇ、気持ち良いっす……ッああ、ヤベぇ……薫さんの手に出しちゃいそう」
「いいよ、それでも」
「いや……薫さんと一緒に気持ち良くなりたいんで」
そう呟いたかと思うと、胸元の辺りを愛撫していた密が先程の指先よりも激しく舌でそこをいじり始める。滴るような音を立て、喰らいつく。ピリッとする甘い痛みに僕が小さく悲鳴を上げて応えると、密は嬉しそうにもっと愛撫してくる。そのたびに、僕の屹立もまた熱をあげていく。
密に与えられる快感があまりに心地よく、いつの間にか僕は密の屹立を扱くことを忘れて快感を味わう方に夢中になっていた。
密の愛撫は胸元からさらにお腹やへその周りに行き着き、やがて下腹部へとたどり着いた。その途端に僕は下半身を突き上げるように抱え上げられ、まるで密に突き付けるような格好になった。
「っや! っや、あぁ!」
「すげぇ薫さんの甘いにおいする……食べちゃっていい?」
「え、あ、あぁん!」
突き上げていた下腹部に密がうずめるように顔を近づけて屹立していたそこを口に含んだ。先程まで受けていたキスと同じような、それ以上の舌の動きが僕の熱を高めるように激しく愛撫していく。
逃げ出したいほどの激しさに身を捩ってはみるものの、密はしっかりと僕の脚も腰も捕えていて全く逃れられない。ただただ一方的に与えられる快楽に悲鳴と嬌声が入り混じった啼き声しかあげられない。
「っは、あぁ! っや、あぁ、んぅ、あ、あぁ!」
啼き声の狭間に僕の下腹部から下品とさえ思えるような水音があふれ、聴覚からも僕を乱していく。身体を反らせ、髪を振り乱してもなお、密の愛撫は止まらない。
その内に密の舌が屹立の奥の秘所へと行きついた気配がしたと思ったら、ためらいもなくそこに舌先が挿し込まれた。
「あぁう! っや、あぁ! 密、っや、あぁ!」
舌先だけでなく、指先も挿しこまれていたようで、水音がより激しさを増していく。そしてそれを上回るような啼き声をあげながら僕は彼を感じていた。
「薫さんのここ、俺の指とか舌とかきゅうきゅうしてくる。そんなに俺のこと、好き?」
下腹部から顔をあげてそんなことを苦笑気味に言ってくる密に、僕はすぐ近くにあったクッションを投げつけて抗う。
「好きだよ! だから、早く……ねえ、密ぅ……」
感性がもはや限界だった。もうこれ以上快楽を与えられたらケダモノのようになってしまうかもしれない……そんなことさえ感じながら乞うように彼を呼んだ。
きっとその時の僕の姿は、顔も髪もぐしゃぐしゃで真っ赤な肌をしていたに違いない。淫らという形容がふさわしい姿だっただろう僕を、密が喉を鳴らして見つめていたのを僕は感じていた。
「――薫、愛してる」
低くて深い声で僕を呼びながら密が重なってくる。ふたりの距離が限りなくゼロになる頃には、彼が僕を挿し抜いていた。満たされていく感触を、僕は声にもならない悲鳴を上げて呑み込んでいく。
「あ……っはぁ、っか……あぁ……」
「ぅあ……すっげぇ、ナカ、熱い……」
溶けそう……と重なった耳元でささやかれ、僕はナカにいる彼をより締め付ける。体内が彼の形を覚え込もうと模って絡みついていくのが心地よく、僕は目を閉じて味わった。
閉じたまぶたに密が口付けを降らせる。そっと目を開けると、至近距離で密が愛おしそうに僕の頬や額に触れて微笑んでいた。その目は少し潤んで涙目だ。
「……密?」
泣いているのかと思って僕が名を呼ぶと、密は一層目を潤ませて僕を抱きしめてきた。
「もう絶対、俺から離れないって言って。俺のそばにずっといるって言って」
「うん、いるよ、密」
震える背中を抱きしめて撫でながら僕が言うと、抱擁はより強くなった。まるで彼の中に刻み込まれるかのような強さに、彼がどれほど僕のことを思ってきたのかを感じて胸が痛んだ。
きっと僕と風磨との関係を知ってから、密は苦しくて仕方なかったんだろう。友達でしかないかもしれない自分と僕の関係を、どうすれば風磨よりも密接した強固なものになるのか考えていたのかもしれない。ただのハウスキーパーと依頼主という関係でなく、友達でもなく、想いを分かち合える関係になるために、密はずっと思い悩んでいたのかもしれない。
だから僕はより強く密を抱きしめ、その耳元に告げた。
「――誰よりも愛してるよ、密。ずっと、一緒にいよう」
繋がりあった躰が熱をあげていき、触れ合った肌が体温をあげていく。改めて見つめ合った密の顔も、その目に映し出された僕の顔も、涙で濡れて汚れていたけれど構うことなく口付けを交わした。
僕のナカを挿し抜く熱がその途端に硬度と熱を増していき、圧迫感と存在感を増していく。その感触に僕らは甘い吐息を漏らす。
やがて再びゆっくりと体を動かし始めた密からは熟れた甘いにおいがより強く放たれて僕を包んでいく。取り巻く空気ごと僕を抱いているかのような感触に触れ合う肌が反応して震える。
「ッあ、っはぁ、あぁ! 密、あぁ、ッあ、あぁ!」
「薫……ああ、もう、イキそ……」
「密の全部、ちょうだい……好き、ッあ、好きぃ……!」
「ッあぁ、あ、薫……!」
呼び合う名前さえも性感帯になっていたのかというほど、夢中で呼び合いながら僕らは肌を溶かしていった。肌も骨も血も精液もすべて、溶け合ってひとつになるほどに抱き合いながら、僕らはそれぞれの屹立から白濁の熱を放つ。
互いの肌や体内を白く汚しながら交わす口付けは、熟れた果物よりも甘く濃厚な味がしていた。
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