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「新作書けました?」
俺は、これで17度目となる台詞を使って問いただす。半分諦めモードに入っているが、こちとら仕事で来ている。明日の飯代まで、この仕事で食いつないでいくしかない身なのだ。
諦めたいが、本当に諦める馬鹿はいないだろう。なにせ、仕事なんだから。
「いや! まだ全然だね」
対する、小説家──行菜秋吏も、これまた17度目になる返答だった。しかも、煙草など吹かして、何やら澄ました顔である。
まるで他人事のように。はぁ、呆れる。
「あのですね! ちょっとは真面目に取り組んで貰わないと困ります!
こっちは責任背負ってるんですよ。編集長にまたとやかく言われたら、流石に言い訳とかもう効きませんからね」
思わず、感極まり机を叩いたりしてしまう。
うぁ、結構じんとくる。力入れすぎたな。
「お~~! 暴力は反対だよ! 私、暴力する男ムリなんだよね」
なっ。いちいち癪に障る....。
「はいはい、そうですか。別に暴力ではないですよ。相手に危害は加えてませんし」
「いやいや。こんなか弱い女の子を、君は怖がらせたんだよ」
「怖がってないでしょ」
「ん、まぁ~ね! だって君、怒っても怖くないしさ」」
ぷーっと口に含んだ煙草の煙を、目の前で吐き出しやがる。ごほ。煙草独特のあの臭さが、鼻腔をやたらと刺激する。
無邪気に、はにかむ悪い笑顔。人が煙草嫌いって言ってんのに!
「....はぁあ。これ以上困らせないで下さい..」
「まぁ~さ。そんなに心配しないでくれよ。ちゃんと、新作は書き上げるから。だから、もうちょい待ってて。
絶対君を面白いって言わせる小説書き上げてみけるから!」
はぁ。一体その自信はどこから出てきたのやら──でも、そんな事言われちゃ、何も文句なんて言えないよな。
「..分かった。じゃあ、飛びっきりの小説書いて下さいよっ!」
「うん!君の為にお姉さん頑張っちゃうぞ~」
「はいはい。で、どんな小説書くつもりですか?」
「ふふ。よくぞ聞いてた! 実はね、今度は路線を大きく変更して.....官能小説を書こうと思うんだぁ!!」
「....あー、却下です。うちは、そういうの扱ってないので」
「嘘でしょ! エロいの書かせろよ~~!」
「ホント、我が儘ですね」
「はぁ? 小説家ってのは我が儘なんですよぉ!」
【完】
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