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中途半端に体を横にし、良倉は眠るように陽彩の膝に頭を乗せていた。車の振動で彼の頭が落ちないよう、陽彩は時おり彼の肩を支え、サラサラの黒髪をそっと手で撫でた。きゅうう、と胸に迫るときめきを覚えて、そっと唇を噛んだ。
途端に言いようのない甘美な気持ちが湧いてくる。内側がもぞもぞと波立つのを感じる。好き、と。内心で囁いた。
*
病院で適切な処置を受け、良倉の顔色はずいぶんと良くなった。腕に繋がれた点滴が終わるころ、窓の外は暗くなっていて、陽彩はスマホで時間を確認した。18時37分だ。
時間を意識したら、不意にグウゥと腹の虫が鳴った。恥ずかしくなり、お腹をさする。
良倉は何事かを考え、ずっと無言でいた。愛美が発した言葉に、はっきりとしたショックを覚えているのだろう。
病院の会計待ちで座ったとき。ようやく良倉が口を開いた。
「今日は遅くまで悪かった」
「いえ。私は別に。逆に申し訳なかったです。私が良倉さんのコートを借りちゃったから、風邪をひかせてしまって」
「そんなわけないでしょ」と良倉が嘆息と共に独りごちた。
病院に着くまでは一緒だった和志に、陽彩はジャケットを借りていた。和志は愛美との経緯を話すために、父や兄の元へ向かった。今後のことを家族で話し合う、とも言っていた。
「家は大丈夫か? お父さんに連絡した?」
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