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「じゃあ水族館も好き?」
「うん」
「実は私も好きなんだよねっ。今度、二人で行かない?」
「うん、いいよ」
冗談で言ったつもりだけど、良倉はいつもの真面目な顔つきで頷いた。
陽彩はオムライスの最後のひと口を食べ終え、紙ナプキンで口を拭った。
「あの。いいんですか?」
「うん?」
「水族館、二人でだよ?? 私はデートのつもりで言ったんだけどな〜?」
「うん、まぁ。いいんじゃない、別に」
テーブルの上の伝票を取ってレジへ向かい、支払いを済ませる。陽彩は「ご馳走様でした」と頭を下げた。
「そろそろ八時だね、下で待つ?」
店を出たところで良倉が腕時計に向けた目を、陽彩へ寄越した。
「あの。良倉さんって。これからどうなるんですか?」
「どう、とは」
「ま、愛美さんとは?」
「……ああ」
エレベーターへ進む足を止めて、良倉は大きな窓がある壁際に目を向けた。ゆっくりとそちらへ歩くので、陽彩も付いて行く。彼の背中を見つめる。
「おそらくは早急に事実婚を解消するだろうね。じゃないと愛美が嫌がるし、俺もあの家から出るつもり」
窓の外を見るとはなしに見つめ、良倉は左手の薬指から指輪を抜いた。そのままポケットに仕舞っている。
「……じゃあ、独身?」
意を決して尋ねると、良倉が振り返った。
「そうだね」
「か、彼女なし? フリー??」
「……それは。まだ微妙かも」
「え」
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