ゆめうつつ

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ゆめうつつ

 夢を見る。  毎日じゃないけど、時間の順番じゃなくてとびとびだけど。  けどまあ、割と毎日毎夜。    夢のほとんどは、記憶。  ホントにあったかつての、おれの。  おれが来生 寿太郎(きすぎ じゅたろう)だった頃の夢で、おれは令和の日本の片隅に住んでいた。  ごく普通の中学生で、何の変哲もない暮らしで、退屈で、幸せだった。  両親がいて、ばあちゃんがいて、兄ちゃんがいた。  親戚や近所の人たちは普通に優しかった。 「お天道様は見てらっしゃるからね」  それが、ばあちゃんの口癖。  おれの家は田舎の集落の寺だったので、『お釈迦様』ならとってもよくわかるのだけど、何故かばあちゃんは『お天道様』って言っていた。  とうちゃんはいつも苦笑いしながら、だけど「間違ってないから」って言ってた。  大事なのは「いつかの自分が、自分のことを恥ずかしいと思わないこと」なんだって。  寺は兄ちゃんが継ぐって決まっていて、おれは将来を考えなさいって言われ始めた頃だった。  当たり前の暮らしは、急に途切れる。  おれはそこから切り離された。  覚えているのは、大きな黒い影と切り裂かれた痛み。  そして、どういったわけかおれは、令和の日本じゃない、この世界にいた。  召喚されて連れて来られたのだと、教わった。  その頃の夢は盛りだくさんすぎて、目が覚めたら疲れてはてていることが多い。  おれを呼び出したのはこの国の王宮の人たちで、おれは生まれもってきっちりしっかり男だったのに、何故か、女の身体になっていた。  訳が分からない。  その上、傷をいやしたり気持ち悪いもやもやを消したりなんて、不思議な力を持っていた。  おれは『聖女』と呼ばれて、その力を使って言われるままに仕事をした。  知らない大人たちが、おれを利用していると思っていた。  寂しくて不安でどうしようもなかった。  そんな中で、おれを好きだと言ってくれた人がいたんだ。  イルス。  隙間にしみこむように、好きだ愛してるなんて言われて、守られて、優しくされてみ?  ほだされちゃうだろ。  元は男だったとしても中身が違う訳じゃない、その心根を持つお前が好きだって、そう言ってくれたんだ。  その言葉を信じた。  身も心も、求められるままに差し出した。  身不相応だと思いながらも、プロポーズに頷いた。  だって、イルスは王子だったから。  結婚したら『聖女』の仕事で支える以上に、おれにできることでイルスを支えたいって思った。  だけど叶わなかった。  誰の犯行かは分からないけど、今の後宮にいる姫たちの中の関係者が、犯人なんだと思う。  おれは突然元の世界に戻されてしまったんだ。
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