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「それなんだがな――相変わらずというか、変わっていないというか。ろくでもないことだけをベラベラと喋って帰っていった」
「……そうでしたか。焔老板もお気になされていらしたもので」
「後で老板にもご報告申し上げるが、あの馬鹿が良からぬことをしでかす前に摘める芽は摘んでおかねばならん。ヤツはしばらくこの日本に滞在するとぬかしていたから、ひとまず私の名刺を渡しておいた」
「……名刺を渡されたので?」
「ああ。密かにGPSを仕込んである方の名刺だ。ヤサを知っておいて損はないからな」
渡した名刺は社のロゴマーク部分にGPS機能を組み込んだタイプのものだ。余程のことがない限り使うことはないのだが、不測の事態が想定されるような場合にだけ使えるようにと特別に作った名刺である。記載の電話番号も簡単に変更可能な――いわばメールでいうところの捨てアドレスのようなもので、架ってきた通話は転送で李の携帯へと入ってくる仕様だ。むろんのこと劉も同様の名刺を持っているが、未だに使ったことはなかった。
「左様でしたか。すると彼がまた何か焔老板に不利益をもたらすような兆しがあったのですか?」
「今のところは何とも言い難い。だが、日本での仕事が上手く運んだ暁には老板にもいい話が持ってこられるかも知れないなどとほざいていたからな。用心しておくに越したことはない。お前さんも心に留めておいてくれ」
李は昨夜郭芳と話した内容を一通り話して伝えた。
「なるほど……。私自身はあの郭芳がファミリーを去った後にご縁をいただいたもので、彼についてはよく存じませんが、心しておきます」
そんな話をしていると周らが出勤して来た。
「老板、冰さん、おはようございます」
李は早速に昨夜のことを周にも報告することにした。
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