身勝手な愛

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 汐留、午後九時――、ラグジュアリーと言われているホテルのバーだ。 「しかし変わられましたね、焔老板(イェン ラァオバン)も。すっかり企業人になってしまわれていて驚いた――」  カラカラとスコッチのグラスを弄びながら男が苦笑する。香港マフィア頭領の次男坊で今は東京の汐留にて大手商社を経営している周焔(ジォウ イェン)についての話題だ。  男の対面ではその周焔(ジォウ イェン)側近の李狼珠(リー ランジュ)が感情の見えない無表情でバーボンを傾けていた。 「――褒め言葉と受け取っておく」  仮にも侮蔑の意味で言ったのなら容赦しないぞという意味だ。 「何もそういきり立つことはないでしょう。悪い意味で言ったわけじゃありませんよ。あなたも相変わらずですね、李さん」  決して怒っているというわけではなかろうが、どうもこの李という男は感情の起伏が見えにくい。まるでそう言いたげに男は肩をすくめてみせた。  男の名は郭芳(グォ ファン)、元は香港の周ファミリーに与していたことのある――李からすればいわば昔の同胞だ。とはいえ郭芳(グォ ファン)がファミリーにいたのはほんの数年で、同胞と思っているのは彼のみかも知れない。 「他人(ひと)のことよりお前さんの方はどうなのだ。確かモデル業一本で生きてみたいからヨーロッパに渡ると言って組織を抜けたと記憶しているが」
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