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紫月は「あははは」と豪快に笑いながらも懐かしそうに笑顔を見せていた。
「おめえン方は立派になっちまってー!」
着慣れたふうのスーツ姿でいる後輩を見てそう讃える。
「今はどうしてんの? そういや同じ市内に住んでんのに顔合わせることねえもんなぁ」
「ええ、自分は……卒業してから家を出ちまったもんで。職場、都内なんス。通えなくもないんスけど」
「あー、じゃ今は一人暮らし? 東京住んでんだ?」
「ええ。建設関係の会社でして。結構残業も多くてですね」
だから少しでも会社の近くにと思って都内暮らしを決めたそうだ。
「そっかぁ、頑張ってんだなぁ」
「紫月さんは? 今でも道場手伝ってるんスか? 親父さんお元気っスか?」
「ああ、うん! お陰様でなぁ。親父、未だ現役バリバリで教えてるわ」
「そうっスか。っていうか今日は?」
作業着姿の紫月の出立ちを見て不思議に思ったのだろう、そんなふうに訊いてきた。
「今日はな、藤祭りの準備でさ。自治会のおっちゃんたちとな」
「藤祭りっスか。そういえば俺らが高坊の頃からありましたね」
「つか、お前さんの方は? 今日は実家帰って来たんか?」
「ええ……まあ。帰って来んの、正月以来で」
「そっか。んじゃ、ご家族も首長くして待ってるべ! 早く帰ってやんな!」
それじゃあなと言って作業に戻ろうとすると、
「あ! 紫月さん! その……今度……」
三春谷が何かを言い掛けたが、それと同時に川久保老人らからちょっと手伝ってくれと声が掛かった。
「ああ、三春谷。悪ィ! そんじゃなぁ!」
「あ、はい……。引き止めちまってすいません。……失礼します」
「おう! おめえも気をつけて帰れなぁ」
笑顔で手を振りながら走って行く後ろ姿を、三春谷が残念そうな顔つきで見送っていたことに紫月はまったく気付かなかったようだ。
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