絞り椿となりて永遠に咲く

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 その日、鐘崎が帰宅するのは比較的早めだった。紫月も祭りの飾り付けに日没までかかったので、組に帰ったのはほぼ同時くらいだった。鐘崎の気遣いは相変わらずで、今日は丸一日自治会で奮闘してきただろう紫月の為に好物のケーキを買って来てくれた。 「うわ! さんきゅー! おめえだって依頼で出てたってのにいつも悪ィな」 「いや、お前も朝から力仕事だったろうからな。心ばかりだ」 「さっすが遼! 俺、愛されてんなぁ」  食べる前から頬っぺたが落ちそうな笑顔で紫月は感激の面持ちを見せてくれる。鐘崎にとってはその笑顔こそが何よりの癒しであり、仕事の疲れなど一瞬で吹っ飛ぶというものなのだ。 「ありがとな、遼! 遠慮なくご馳走になるわ」 「ああ」  返事は短く一見ぶっきらぼうにも思えるが、喜んでもらえて何よりだと顔に書いてある。そんな思いを体現するように、鐘崎は愛しい嫁を腕の中へと抱き包んではスリスリ、満足そうに頬擦りをしてよこした。 「ありゃ? もうほら、これ」  朝方剃った髭が既に少し伸びて頬を撫でる感覚に、紫月は瞳を丸める。 「ん? ジョリジョリするか?」 「ん! この独特の感覚が気持ちいーけどな!」  それにしても相変わらず髭が伸びるのが早いなぁと笑う。 「まあな、毛が伸びるのが早い男は愛情が濃いというだろう?」  鐘崎は鐘崎で自慢げにそんなことを言う。その少し不敵な笑顔が何とも男前に思えて、頬が染まりそうだ。 「へへ! 愛情濃い旦那を持って幸せなぁ、俺!」  満面の笑みで抱擁に応え、早速にケーキを頬張った紫月であった。
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