絞り椿となりて永遠に咲く

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 それから二時間も経った頃だ。酒も入ってきたし、夜も更けてきた。あと小一時間で切り上げようかと思い始めた時だった。三春谷が少々物言いたげな真顔で厄介なことを言い出したのだ。それは紫月の結婚相手についての話題だった。 「紫月さん、こんなこと言ったら失礼かも知れませんが」  そう前置きした上で三春谷は身を乗り出してきた。 「紫月さんが結婚された相手って……男なんですよね?」  そう振られて紫月は内心ついに来たかと苦笑。男同士で結婚と知れば、必ず持ち上がる話題だからだ。だが、もうバレているなら隠す必要もない。 「うん、そう。誰かに聞いたん?」 「ええ……。地元のヤツらから聞きました。相手の人、高校も同じだった鐘崎さん……でしたっけ。あの人が紫月さんの結婚相手だって」 「そそ! ここいら辺のヤツらは皆んな知ってっからなぁ」 「そういえばあの頃も……自分が紫月さんのクラスに顔出してる時、よくあの人に睨まれた記憶がありますよ」 「睨まれたぁ?」  まさかそんな――と、紫月は苦笑気味だ。 「マジですよ。あの人いつもおっかねえ顔して自分のこと見てました」 「はは……! まあな。あいつ愛想ある方じゃねえから誤解されやすいけど。でも別に睨んだわけじゃねえと思うぜー。ツラがな、元々仏頂面だから」  笑いながらそう言うも、三春谷にはそれが鐘崎を庇う言葉に聞こえたようだ。
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