絞り椿となりて永遠に咲く

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「そんじゃな! 気をつけて帰れよー。婚約者さんによろしくなぁ!」 「あ……りがとうございます……。紫月さんも……」  それ以上は言葉にならない。自分でも何をしているのかよく分からない内にタクシーが走り出し、窓の外には笑顔で手を振る紫月の姿。その脇には嫌味なほどにサマになっているダークスーツの男。そしてそれによくよく似合いの黒塗りの高級車が一台。聞かずともそれが彼の車なのだろうと分かる。飛んでいく景色の中、それらが切り取られた絵画のようになって視界に焼きついた。 「……チッ! ヤクザめが……」  思わずこぼれてしまった舌打ちに、運転手がチラリとバックミラーに視線を動かす。その後、実家に帰り着くまで三春谷の舌打ちはとまらなかった。  一方、紫月の方はタクシーが遠ざかるのを見送りながら、ホッとしたように小さな溜め息をつき、すぐに愛しい亭主に向かって礼を述べていた。 「遼、まさか迎えに寄ってくれるなんてさ! ありがとなぁ」  笑顔ながらもやれやれと肩の力が抜けたような面持ちを見ただけで、鐘崎にはその胸中が理解できたようだった。おそらくは自分たちが男同士で結婚したことや、組についての話題なども出たのだろう。それを肯定するように駆け付けてきた橘と春日野の表情を見れば、どんな話題でどんな様子だったのかも一目瞭然だ。 「お前らもご苦労だったな」  労うように肩を抱いてくれる亭主の肩に頬を預け、紫月は『ありがとう』と言うように笑みを見せたのだった。
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