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紫月から電話が来たことで、三春谷は心躍らせたようだった。先日の居酒屋で奢ってもらったことを申し訳なく思っているので、その礼がてら今度は自分に奢らせて欲しい、要件はそれだった。
「じゃあ結婚式の招待状云々というわけではねえんだな?」
「うん、招待状がどうのって話は出なかった。都内のバーで会えねえかって」
「バーか。それで場所は?」
「渋谷だって。会社の近くに洒落た店があるからって」
「ふむ――」
奢ってもらった礼に奢り返すというのは一見道理としては通っている。――が、会う為の口実とも受け取れる。
「紫月、正直お前はどう感じる。三春谷がお前に対して先輩やら友人以上の感情があるように思うか?」
「さあ……どうかなぁ。ダチ以上の感情って、まさか俺に気があるとか?」
そりゃねえべと言って紫月は笑う。
「まあ……確かにちょっと押しは強えなと思わなくもねえけど、単に懐かしいだけじゃね? だってヤツは結婚を控えた身だぜ? 第一高校卒業してから一度も連絡すら来たこともねえし、単にこの前偶然会ったから懐かしがってるだけじゃね?」
結婚してしまえば自由に飲みに行く時間も少なくなるだろうし、その前に羽を伸ばしておきたいくらいに思っているんじゃねえの? と、暢気なことこの上ないが、これも紫月の人の好さゆえだろう。
「ふむ、羽伸ばし――ね」
鐘崎にとっては思うところのあるものの、三春谷が何を考えているのか掴まないことには始まらない。もっと言えば何を企んでいるのか――ということも視野に入れねばならない。
「分かった。とりあえず会ってみろ。ただし護衛はしっかりつけるぞ」
橘と春日野に加えて源次郎にも出向いてもらった方が良さそうだ。鐘崎は表向きは彼ら組員に任せつつ、自らも密かに様子を窺うことに決めたのだった。
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