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「俺のこと嫌いスか? 紫月さん、あの鐘崎って人とヤってるんでしょ? だから俺にも手解きしてくれるだけでいいんです。独身時代のいい思い出にしたいんです。憧れてた紫月さんが相手なら俺、男でも抱けると思うし」
「つまり何? お前さん、単に野郎とヤってみたいって――そういう好奇心か?」
「野郎なら誰でもいいってんじゃないです! 紫月さんなら……」
「おいおい……」
紫月はもちろんのことながら、周りの席で様子を窺っていた源次郎や橘らも目を剥くほどに驚かされてしまった。
車中で店内の音を拾っていた鐘崎にとっては言うまでもない。額には青筋が浮かび上がり、集音器が壊れんばかりに握り締める。
(野郎……ふざけたことを――)
ただの懐かしさや先輩を敬う後輩というなら大目に見てやろうかとも思っていた。だが、相手がそういう魂胆ならば話は別だ。
鐘崎は無表情のまま車を降りると、店の入り口で紫月らが出てくるのを待った。おそらくは源次郎らの計らいですぐに三春谷が追い出されると分かっていたからだ。
集音器は未だ店内の音を拾っている――。
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