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「人聞きが悪いことを言ってくれる」
「……ひ、人聞きが悪いのはアンタの方でしょ……。いくら紫月さんと結婚してるからって……俺たちの会話を盗み聞きするなんて……犯罪っスよ?」
「俺たち――だ?」
「は、はは……突っ込むところはそこですか! 俺と紫月さんが仲良くしてるからって妬いてるってわけ!」
鐘崎からすればえらく理不尽な言い草だ。本来ならば今のひと言でぶちのめしてやってもいいくらいだが、あまりのバカさ加減に怒りよりも呆れが先に立って、軽い溜め息が漏れてしまった。
こうまで言われても平静さを崩さない鐘崎に、三春谷の方ではすぐに殴られるなどの危険性がないと確信したのか、次第に横柄な感情が顔を出す。ヤクザとは名ばかりで、思っていたよりも案外大したことのない男なのかと舐めて掛かる上から目線で調子づいていった。
「そうでしょ? さっきの人ら……あれもアンタのところのヤクザなんでしょ? あの人らに盗聴器でも持たせてたっていうんスか? アンタ、そうやっていっつも紫月さんのこと縛り付けてるんスね? たかだか後輩と飲みに行くくらいで監視までつけるとか、異常っスよ!」
思いつく限りの言葉を並べ立てて罵ったつもりだったが、目の前の鐘崎は依然怒るでもなければ顔色ひとつ変えない無表情そのものだ。普通ならば、「何をッ!?」とか、「もういっぺん言ってみろ!」などと憤慨して言い争いになるだろうシチュエーションのはずだ。そうなればなったでちょうどいい、三春谷としては子供の頃から剣道を嗜んでいて、腕にもそこそこ自信がある。この際、鐘崎を怒らせ、取っ組み合いにでも持ち込んで打ちまかしてやればいい気味だ――そんなふうに思ってもいた。
ところが――だ。直後に鐘崎から飛び出した言葉に、驚きを通り越して硬直させられる羽目となった。
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