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そうなのだ。この男、郭芳は元々香港にいた頃から見目の良い容姿を買われて、表向きはモデルとして芸能事務所に在籍しながら社交界で情報収集に当たるというお役目を授かっていたという経緯の持ち主である。主には李同様、周焔の管轄下に置かれていた男である。
ところがそのお役目でやっていたはずのモデルという職業が性に合ったとかで、本格的に世界の檜舞台で勝負してみたいだなどと身勝手な理由からファミリーを抜けたのだった。――が、思ったようにうだつが上がらず、モデル業はほんの一年ほどでリタイア、ヨーロッパを出て以降は東南アジアに渡ったらしい。
「本来だったら到底許されまい我が侭だ。それをボスが寛容なお心でお赦しくださったのだ。他の組織では有り得んことではあるな」
無表情のままで李が言う。いわば嫌味である。男はバツの悪そうに苦笑いを繰り返してみせた。
「まあそう苛めないでくださいよ。私だって単なる身勝手でファミリーを去ったわけじゃない。モデルを隠れ蓑に情報収集するのなら、香港という小さな枠にとらわれず世界の舞台でより貴重な情報をファミリーに提供したいと思ったからです」
今でもファミリーのことは何より敬服しているのだと彼は言った。
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