身勝手な愛

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「だってそうでしょう? 香港にいた頃のあの人は――いつでも抜き身の刃を懐に持っていらっしゃるような鋭さがお有りになられたが、先程お目に掛かった印象では随分穏やかになられてしまったというか……。まるでご自身がマフィアだということをすっかり忘れてしまわれたかのようで……それが残念だと言ったのです。私はね、もっとこう……ギラギラとした危うさとか冷たさとかを持ち合わせている――安易に触れたら命にかかわるような緊張感とでも言いましょうか、そういったあの人でいて欲しいんです。『マフィアの周焔(ジォウ イェン)』でいて欲しいんですよ」 「何を馬鹿な――! 老板(ラァオバン)は今でもれっきとしたマフィアのファミリーであらせられる」 「そうでしょうか。その実、李さんだって私と同じような思いは少なからずあるのでは?」  まったくもってばかばかしいことをいう男だ。李は返事すらする気にはなれなかった。 「まあこの話はこれまでということで。李さん、よろしければ連絡先を交換していただけませんか? 日本での仕事が上手くいけば、何かいい話が持ち込めることもあるかも知れませんし」  何がいい話だか――とは思うものの、彼の居場所を把握し手駒を増やすだけなら損にはならないだろう。李は懐から名刺を一枚引き抜くと、スイと彼の目の前へ差し出した。
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