理想の結婚相手は、犬が教えてくれる。

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 とうとう来てしまった。  白石美紀はテナントビル内にある部屋の前でため息をついた。  胸に抱いているチワワのモモが、心配そうに顔を見あげてくる。白と黒の毛が混じった小さな額をそっとなでてやると、気持ちよさそうに目を細めた。  ガラス張りの扉の横には、木製の立て看板が置かれていた。そこには「結婚相談所 ウィズドッグ」と書かれている。枠はドライフラワーで彩られていた。  先月の小百合の結婚式で見たウェルカムボードを思い出す。小百合とは唯一の独身仲間だった。結婚していない私たちは一生自由だね、なんて二人で負け惜しみを言っていたのに、ついに先を越されてしまった。  美紀は今年で四十歳になる。同居している母からの、未婚であることへの嫌みが日を追うごとに増えていく。頑張っていても見つからないのだと何度説明しても理解してくれない。自分の力だけではどうしようもないと気づき、とうとう結婚相談所に来たのだ。  数ある結婚相談所の中でも美紀がここを選んだのには理由がある。それは──。 「あら、ご予約の白石さん?」  扉から顔を出したのは、淡い緑色のワンピースを着た女性だった。この結婚相談所の代表のマキコだ。美紀とは面識がなかったが、ホームページで彼女の顔を見たことがあった。今年七十歳を迎えるそうだが、まだ五十代だと言われても納得してしまうくらいに若々しい。化粧も美紀よりずっと丁寧で華やかに施されている。 「そうです。今日はよろしくお願いします」 「こちらこそ。どうぞあがってちょうだい」
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