椎名くんは驚かない

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 なにこれ。動けない。  何かが私を四方から圧迫しているみたい。 「どうした、藤川」  椎名くんが振り返るけど、声が出ない。  なんなの本当に。  目に見えないものに抗っていると、突然目の前が真っ白になった。眩しすぎる光を浴びて目が見えなくなったみたい。目の前にいたはずの椎名くんも、古臭い神社の景色も何もかもが光にかき消されて見えなくなる。  もしかして、超常現象?  変な鳥居をくぐったせい?  どうしよう、誰か助けてっ!  と、その時。 「コーン」  またキツネの鳴き声が聞こえた。目を凝らすと、正面に本物のキツネがいる。 『突然で申し訳ないコン。お腹が空いて死にそうなのコン。油揚(あぶらあげ)を買ってきてほしいのコン。そうしたら元に戻すコン』  目の前のキツネは変な語尾で喋りながらペコペコと頭を下げた。  元に戻すってどういうこと?  そう尋ねようとした途端、再び強烈な光に襲われて、私は目を瞑った。 「おい、藤川! 大丈夫か、藤川!」  気がつくと、神社の境内へと向かう短い石段の上で、椎名くんが私を抱き抱えていた。 「うう……今のは……?」 「た、大変だ……! お前、大変なことになってるぞ!」  椎名くんはやたらとテンションを上げている。 「大変なことって?」 「見てみろ、これ!」 「えっ?」  椎名くんが私のお尻を触った。ゾワっと鳥肌が立つ。 「えっち!」  思わず体を捻ると、フサフサした尻尾が椎名くんのほっぺをビンタした。 「いってー! いや、痛くないけど」 「どっちだコン」  コン?  自分のツッコミに違和感を覚える。いや、その前に私、椎名くんをどうやってビンタした?  おそるおそる自分のお尻を見てみる。  するとそこには……キツネのようなフワモコの尻尾がパタパタと揺れていた。 「コーン!!(驚)」    
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