椎名くんは驚かない

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 それから約15分後。 「買ってきたぞー!」  椎名くんはコンビニの袋を下げて、両手に何かあったかそうな汁物を持って現れた。近づくとコーンのいい匂いがする。 「キツネといえばコーンだから、コーンスープ。粒たっぷりだぞ」 「これだったかなあ?」  なんか違う気がする。 「いいから飲んでみろって」 「うん。いただきまーす」  椎名くんと一緒に石段に座って、あったかいスープを飲む。ホクホクした湯気が風に運ばれ、境内の枯れ葉を揺らす。濃厚なコーンととろみのある舌触りが甘くて美味しい。外で飲むコーンスープって最高だよね。 「んまーい!」 「戻らないな。良かった」  椎名くんはほっとしたように笑った。  良かったじゃないのよ。戻って欲しいのよこっちは。  だけど、いつもより優しい椎名くんの態度が嬉しい。 「ごちそうさま」  結局、完食しちゃった。私の耳としっぽは最後まで消えていなかった。 「コンビーフも買ってみたけど、食べる?」 「食べるー」  これじゃない感はもちろんあったけど、一応試食。椎名くんはこのほかにうまい棒のコーンポタージュ味とわさビーフのポテチを買ってきていた。 「うまい棒は分かるけど、わさビーフは完全にコンビーフにつられてるよね。ビーフに寄せてどうするって話だよね」 「あーそっか。次は完全にビーフシチューだと思ってた」 「違うから。コーンだから」 「コーンって難しいよな。他に思いつかないもん」  椎名くんが見上げた空には秋の雲がゆっくりと流れていた。  今の季節、太陽は逃げるように沈んでしまう。  風はいつの間にか冷たくなるし、暗い影が増えてくると心細さがにじり寄る。 「こうしているうちにどんどんキツネ化が進んで、最終的にキツネになっちゃったらどうしよう……。あたしんちペット禁止だから、家を追い出されるかもしれないコン……」  野ギツネになったら受験もクソもない。将来お先真っ暗だ。  すると、椎名くんがぽん、と私の頭を撫でた。 「心配すんな。もしも藤川がキツネになったら俺が責任持って飼ってやるから」
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