椎名くんは驚かない

6/8
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 隣を見ると、優しい笑顔の椎名くんがいた。  私が獣人化したのに、全然驚かずにこんなかっこいいことを言ってくれるなんて……。思わずキュンとなる。   「椎名くん……」 「その代わり、キツネになったら毎晩しっぽをモフらせてくれ」 「嫌だコン!」  私はしっぽで椎名くんの背中をモフッと叩いた。 「もう、冗談言ってる場合じゃ──」  呆れて文句を言おうとした時、椎名くんが私の肩をギュッと抱き寄せた。   「本当だよ。藤川がどんな姿になったとしても、俺はずっとそばにいるから」  えっ。  うわ。  どうしよう。泣く。  いい男じゃないか、椎名くん。 「ありがとう……」  ホロリと来てしまいそうになり、私は目を瞑った。  その唇に椎名くんの唇が優しく触れる。  体が内側から熱くなって、私のそばから秋が一瞬いなくなった。    私、椎名くんのカノジョで良かったな。  心からそう思った時だった。  フワッとほのかに、椎名くんの唇から甘いお出汁の匂いがした。  この匂いはもしかして、きつねうどん? 「椎名くん、もしかしてコンビニできつねうどん食べてきた?」  私が尋ねると、椎名くんは少し照れた顔をした。 「バレたか。いろいろ買ってるうちに俺も腹減っちゃってさ。でもコーンスープはあったかいまま持ってきたかったから、うどんはイートインですぐ食べてきたんだー。熱々の油揚で舌やけどしちゃったよ。ホラ」  ペロッと舌を出す椎名くん。やけどしているかどうかなんて分からないけど──今、この人、重要なことを言ったよね? 「油揚……それだーっ!!」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!