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「ん...」
車内アナウンスで目が覚めた。ずいぶんと長い間眠っていたような感覚を味わうと周りに迷惑のかからない程度に伸びをし、少し緩んだ髪を結びなおした。社会人三年目だがまだ慣れない。
「ふぅ。」
ふと顔を上げると目の前に金髪の女がいた。濃い化粧に耳についたピアス、私が一番好まない女のタイプだ。
「や~ん、ねこちゃんちょーかわいい!!」
知性のかけらも感じない話し方にイラつく。何がや~んよ。なんて心の中でつぶやいた。
「たっちゃ~ん、こぉれぇ見てぇ?」
女の目線に合わせ目を向けると女より一回り大きな男がいた。男は女にベタ惚れなようで溶けたような笑顔を女に向けた。周りを見ると皆私と同じ気持ちなんだろう目のやり場に困っていた。
「ちゅ…」
という音が耳に届いたとき、私は心底鼓膜を恨んだ。ちらりと一瞬だけ視線を送ると…やはり二人はキスをしていた。
「(はやく駅についてくれ…!!)」
永遠のように長い時間を耐え、電車が駅に到着すると私たちは争うように扉を目指した。ドンッとハゲたおじさんにぶつかったがお互いの気持ちが通じているのだろう目を合わせ頭を下げあった。三番目に電車を降りた私は一度も振り返ることなく駅を後にした。家に着くころには自慢の黒髪もぼさぼさになっていた。
今日は仕事が忙しかった。いつも以上に疲れた私は携帯を触る気にもならず目を瞑っていた。
「ねぇ!次のデートはどこがいいかな!?」
甲高い声がキーンと耳をつんざいた。…またか…今日も遭遇してしまうとは運がない。
「ねぇ?今日はどうだった?」
「今日も楽しかったよ。」
「ちーがーうー!!今日も…かわいかった?」
「…えへ!うれしい!!…ちゅ。」
イライラする会話だ。何というくだらない質問だろうか。最近の若者はみんなこうなのだろうか。
「(早く…着いてくれ…!!)」
いつかと同じ気持ちを胸に長い長い時間を耐える。
「次は○○駅~○○駅~。」
最寄り駅の名前が耳に届くと自然と体がドアへ向かった。その際目を開けちらりとうるさいカップルに目を向けた。私はその時狐に化かされたように驚き、思わず
「え!」
と声を上げた。
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