36.万事解決にはまだ早い

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「あなたは上臈屋の結さんですね」 「――っ」  双子である結様の正体をいとも簡単に見破る透真様。  私は慌てて透真様の前に回って、結様へ向ける彼の視線を遮る。 「そうなのです、透真様! 私、結様に助けられたのです」 「千鶴様、何をおっしゃるのです」  いつにない厳しい表情の透真様は、もう真相が見えてしまったのだろうか。だとしても。 「実はクルが急に奥のほうへ遊びに行ってしまって、慌てて私が追いかけたのです」  ごめんね、クル。  眠っているクルに心の中で謝罪する。 「キュウ!」  モフモフも同意の声を上げてくれた。たぶん。 「その先にちょうど結界を張る練習をしていた結様がいらっしゃいまして。私がうっかりそこに入り込んでしまったのです。ね、結様」 「え、えと」 「――ね、結様!?」 「あ、は……その……ハイ」  結様を見下ろして目力で合図を送ると、彼女はもごもごと答える。 「千鶴様」 「結様の結界、すごいでしょう! 私はずっとここにいたのですが、真白さんや鈴さんもまったく気付かなかったのですから。私もまさかまさか結様と楽しくお話ししている内に、自分が行方不明になっているとは思わなかったのです。ええ、露ほども! そうこうしている間に先ほどの男性が現れたのです! 私の軽率な行動で皆様にご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます」 「千鶴様、今日はやけに饒舌ですね」  透真様は依然、厳しい目を向けたままだ。 「い、今は恐怖でとても気分が高ぶっている状態だからです。何か話していないと落ち着かないのです」  心細そうに言うと、真白さんと鈴さんが私の両脇に立って腕を組んでくれた。 「そうですよぉ! 怖い目に遭ったのですもの」 「……透真様」 「ではなぜ千鶴様は蜘蛛の巣で拘束されていたのですか」  私がどんなに取り繕ったところで、彼にはすべて分かってしまっているのだろう。しかし透真様は追及を止めない。  透真様は美影様の側近として、あやかしを取り締まる側として厳しく追及すべき立場だからだ。誰かのために、何かのために厳しくすることは、誰かを守るためだからだ。彼もまたとても誠実で優しいお方。  私が透真様に微笑みかけると、彼は少し怯んだ。 「先ほどの男性が私に襲いかかろうとしたので、結様が蜘蛛の巣を放ったのですが、方向がずれて私にかかってしまったのです」 「ではなぜ彼女まで蜘蛛の巣で拘束されているのです」 「モフモフが私への攻撃と間違えて、結様に返してしまったからです。――ね、モフモフ」 「……キュ……ウ」  モフモフも同意の声を上げてくれた。たぶん。 「つまり結さんは、男から千鶴様を助けようとして余計に窮地に立たせたということですか? そんな馬鹿なことがありますかね」 「はい! それがあるのです。なぜなら結様はおまぬけさんだからです!」 「お、おまぬけ……?」  私が拳を作って力説すると透真様は顔を引きつらせ、おまぬけだってよと、周りも戸惑いのどよめきが起こる。一方、美影様は大きくため息をついた。 「分かった。結、千鶴を助けようとしてくれたことに感謝する」 「美影様」 「千鶴本人がそう言うのだから、間違いないだろう。結を立たせて拘束を解いてやれ」  透真様は小さく息を吐いて諦めたように微笑むと頷いた。 「承知いたしました。――我が主、美影様」
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