2.鬼神信仰

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2.鬼神信仰

 この村、神影(みかげ)村には千年よりはるか前から鬼神信仰がある。  その昔、超人的な力と超自然現象を引き起こし、人間に悪行を働くあやかしたちとその能力に引けの取らない高い霊力を誇る退魔師との間で、熾烈な戦いが繰り広げられていた時代があったと言う。  しかし優れた退魔師の多くは天子を守るべく都に集められ、手の届かぬ辺境の地はあやかしに壊滅されたり、屈伏して住む地を追われたり、あるいは平和的に共存する道を選び、約束を取り交わしたりした。  神影村は和平協定を結んだ地の一つだ。能力の高い巫女を輩出する、遠野井(とおのい)家は双方に甚大な被害が出る前にと、神影山に棲まう鬼と互いの地を侵害しない協議を申し出た。  もともと争乱を好まぬ神影山の鬼は、無駄に長引く論争をすることもなく、神影村におけるあやかしの統制と村の安寧と繁栄を約束したらしい。しかしもちろん人間側にだけ利になる協定ではない。  神影山の鬼は百年に一度、神気、とりわけ霊力の高い人間を一人差し出すよう要求してきた。あやかしは霊力や生命力、精力を糧としているからだそうだ。糧が枯渇すれば神影山の鬼は力を失い、あやかしを統制する力も失われてしまうのだろう。遠野井家はその条件を呑み、うら若き自分の娘を鬼の花嫁として送り出す。  かくして一人の犠牲のもと、神影村から脅威は去り、平穏な日々を取り戻すことができた。  一方、鬼は約束通り、超自然能力を持ってして村に五穀豊穣をもたらし、繁栄させた。喜び勇んだ村人らは鬼を神影山の鬼神様と崇め奉り、鬼神様の神通力の糧となるにふさわしい花嫁とするため、対象者を懇ろに育て上げ、丁重にもてなすことを村の掟として代々引き継いでいくものとしたのだった。  そうしてその百年目となる年がまたやって来る。
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