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ユーマを乗せた宇宙船が惑星ソラの大気圏に入った。主エンジンが破壊された宇宙船は高度をどんどん下げていく。
ユーマの仕事は星間宅配便の配達員だ。星から星へ荷物を届けるのが仕事だ。
個人事業主なので、多くの荷物を届ければ、それだけ実入りも多くなる。働けば働くほど収入がアップする。惑星シェラザードの第2宙港ビル地下のパブ『ガジュマル』でそんな話を聞かされて、ユーマは宙港ビル売店の仕事に見切りをつけた。
配達員になって暫くは、転職した甲斐があったと思った。売店の店員の給料とは比べられないほどの稼ぎになったのだから。
ところが、皆考えることは同じだった。ユーマが配達員になってから、続々とこの商売に参入する者が現れた。そうなればどうなるか。経済学が教えるところの需要と供給の法則だ。需要に対して供給が多くなれば価格は下がる。法則通り、当然ユーマたちが受け取る配達単価は切り下げられた。
では、どうするか。荷物を多く運ぶしか方法はないだろう。だから、ユーマは敢えて危険な惑星ソラのルートを飛んだ。このルートをとれば、時間は正規のルートよりも半分近く短縮される。同じ時間でより多くの荷物を運ぶことができるということだ。
なぜ、惑星ソラのルートが危険か。この辺りは小惑星の密度が高い一帯なので衝突の危険があるのだ。実際、このルートでの遭難はよく聞く。だから、命が惜しい配達員はここを飛ばない。
「ソラルートを飛ぼうと思うんだ」
『カジュマル』で飲んでいる時、ユーマは昔からの友人で配達員仲間のメビウスに言った。ユーマを星間宅配便に誘ったのも彼だ。
「馬鹿なこと考えるな。止めとけ」
バーボンで顔を赤くしたメビウスがユーマを止めた。
「いや、もう決めたんだ。このままじゃ稼ぎは減っていくばかりだ。船のローンもまだ残ってるし」
「それは分かる。俺だって同じだ。けど、金よりも命が大事だろう」
「それでも、あそこを飛ぶ値打ちはある」
「配達員仲間で小惑星と衝突して命を落としたヤツもいる。ボッシュがそうだったのを忘れたか」
メビウスは仲間の名を挙げた。ユーマも知っているが、いいヤツだった。
「あいつは気の毒だった。だが、俺の操縦技術はあいつとは違う」
「それは認める。お前の腕だったら小惑星帯を潜り抜けることはできると思う。なにしろ、恒星間飛行士養成大学出だからな。だがな、もしものことってあるだろ」
「大学出じゃなくて、中退だ」と、ユーマは訂正したが、「いや、正確には除籍処分だったがな」
「ハハハ、パワハラ教官をぶん殴ったんだよな」
大きな口を開けてメビウスが笑う。
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