禁断の惑星

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「とにかく、もう決めたんだ」 「分かった。そこまで言うのなら止めない。だが、一言忠告しておく。惑星ソラには行くなよ」 「連邦政府が立ち入り禁止に指定している星—―いわゆる禁断の惑星だろ。保安局に捕まれば、理由の如何に関わらず刑務所行きだ。そんな星、寄り道してまで行くわけない」 「なら、いいんだ」 「だがな、なぜ禁断の惑星なんだろうな。連邦宇宙軍の基地があるとか、連邦政府直轄の秘密研究所があるとか、なんて聞いたことがないんだが」  ユーマは首を捻った。 「そりゃそうだ。連邦政府は立ち入り禁止の理由を公表してないんだから」 「それは妙だな」  と言って、ユーマはオオイタ麦焼酎のロックを飲んだ。 「配達員仲間から聞いた話だ。二十年ほど前だったか、発見されたばかりのソラに連邦政府の調査隊が行ったんだ。だが、調査はそれ一回きりで終わった。帰ってこなかった調査隊メンバーが何人もいたらしい」 「獰猛な怪獣がいたとか、大気が猛毒のシアン化ガスとか……」 「そんな惑星でも、これまで連邦政府は立ち入り禁止の理由を公表してるだろ。隠すようなことはしていない」 メビウスはバーボンのストレートを飲むと、声を潜めて言った。 「俺がいろんな星の配達先で聞いた話を繋ぎ合わせた話だ。だから、噂話の類なんだが、全くのフェイクでもないと思うんだ。立ち入り禁止の理由は霧なんだよ」  「霧?」 「そう、霧。だがただの霧じゃない。よく分からんが、霧が人の願望を感じ取って、そいつが望むものに変化するらしい。金貨が欲しいと望めば、金貨が現れるんだ。霧のやつが金貨に化けるんだろうな」 「素敵だね。大金持ちになれるのか。その上、美女に囲まれて美味しい料理を食べれるなんて。帰ってこなかったメンバーの気持ちが分かるよ」 ユーマはオオイタ麦焼酎のロックを口に含む。 「ところがそうはいかないんだな。霧が消えれば、実体化した願望も消えるんだ。美女も料理も金貨も消える」 「残念だな。寄り道して、ソラから金貨を持ち出そうと思ったけど、止めとくよ」  冗談を言ったけど、ユーマは端からソラに立ち寄る気なんてなかった。わざわざ立ち寄るなんて、時間のロス以外の何物でもない。もし立ち寄るとしたら、事故で不時着するときだろう。けれど、そんなことは起こさない自信があった。 「忠告ありがとう。俺は立ち寄る気もないし、遭難してソラに不時着するなんてこともないぜ」  その時は笑って否定した。しかし、人は時間が経てば初めの頃の緊張感を忘れてしまうものだ。それが油断を生み、事故につながる。ユーマの場合もそうだ。宇宙船が小惑星と衝突したのは、ユーマの油断が招いた結果だ。
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