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 徳蔵は、自分の名前を口にしてみた。  緊張のせいだろうか。舌がはりついて上手く廻らない。第一声である「と」の音が、意思に反し掠れてしまう。後を追うように「く」、「ぞ」、「う」、と喉元から流れてくるが、なんとも耳慣れないその響きに思わず苦笑してしまった。 まるで顔も素性も知らぬ他所様の名を呼んでいるかのようで、どうにも収まりが悪い。無理もない。彼が自身の名を口にしたのは、実に十数年ぶりのことだったのだから。
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