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プロローグ:いつものお仕事
──これより最終トライアルに入る。拠点に戻りしだい連絡する──
──気をつけてねサーチ──
無線の向こうから声だけで美少女と想像できる相手にああとだけ応える。
目印を兼ねた中継アンテナを介してダンジョン深部からの通信。ダンジョンの中は基本的に温度が変わらない。これは地表の外気と接してないから影響されないからだ。ゆえに夏場は涼しく感じ冬場は暖かく感じる。
そしてひと口に[ダンジョン]と言ったが、いくつかの種類に分けられる。
通信相手のアン・ケイツーは天才考古学者。17歳で中央都市の大学の教鞭を執るほどだ。その彼女によるとダンジョンはいくつかに分類できる、大まかに3タイプ。
完全に人工造りの迷宮タイプ、王族の墳墓や何かを閉じ込める為のものが多い。
次に天然タイプ、自然に創られた洞穴がそうだ。
そして天然加工タイプ、自然に出来た洞穴を棲家に加工して利用していたものだ。盗賊やゲリラなどがよく使っている。
現在攻略しているのは何百年か前の盗賊が根城にしていた洞窟だ。
「分類すると、いまオレが居るのは[天然加工型]だな」
使い慣れた探検装備から新たな装備に替え、それの試験動作を兼ねた簡単なダンジョン攻略のつもりだったが、小規模のわりにはなかなか手強い。
大人ひとりがようやく通れる洞窟をしゃがみ歩きで進む。真っ暗で狭い洞窟は常人ならそれだけで心理的圧迫があるだろう。先に何があるか分からないしどうなっているかも分からないからな。しかしオレは平気だ。
「エコーズ」
喉の奥をカンと鳴らす、すると真っ暗から昼間の晴天のように明るく景色が見えるようになる。これがオレ、サーチ・ヴェルマークの[異能力]だ。暗闇でも見えるので心理的圧迫が軽減される。そのうえだ。
「エコーズ・クリア」
ふたたびカンと鳴らす。するとコンピューターグラフィックスのように景色が透明化する。これによりダンジョンの造りが手に取るように判るので、迷うこと無く行き止まりに行ったり、危険な動物や箇所を避けることができる。
「ふん、行き止まりとみせかけて奥は広い空間か。そこに何かあるようだな」
ここで気が急くような新人ではない。まだ25歳だが10歳の頃からダンジョン専門の地図屋で生活している熟練者冒険者なのだ。[エコーズ]では解らない事があることも熟知している。
ここに来るまで複雑なコースを辿ってきた。通りやすいコースで行くと、行き止まりの到着空間に空っぽの箱がいくつかの転がっている場所に出る。大抵の奴等は、「なんだ、もう取られているのか」と諦めて帰るだろう。だがそれは罠だ。
心理的に避けたくなる細い穴、狭い穴を通るとここに辿り着く。
「ここを根城にしていた盗賊は、なかなかイヤらしい性格のようだな。ということは……」
財団から支給された探検服と新装備から気体探知機を取り出し、2Mくらいのアンテナを伸ばしてスイッチを入れ計測する。反応有り。
「やっぱり有毒ガスを溜めておいたか。王族の墳墓並みの警戒だな。死んだあとも取られたくないなんて強欲なヤツだったんだろうな」
新装備はオレの注文が詰まっている。ヘルメットは軽量でライトと一体型であり無線通話ができる。さらにだ。フェイスシールドを下ろすと探検服と繋がり簡易気密服となる。
[エコーズ]は所詮暗闇でも見える程度の能力だ。ダンジョン攻略するには弱点が山程ある、だからその分装備で補う。
気密性をチェックしたあと、5分ほどの超小型空気ボンベを接続。覚悟を決めて一気に進んだ。
広い空間に下りると鎮座しているひと抱えくらいの大きさの豪華な宝箱に慎重に近づく。[エコーズ・クリア]で壁面天井地面にトラップが無いことは分かっている。あとはこの宝箱を──。
「──ふん、本当にイヤらしくて強欲なヤツだな」
最後のトラップに気づくと、(コイツとは絶対会いたくないな)と何百年も前に死んだヤツに毒づく。
宝箱を持って戻ろうとすると、狭い洞窟のへこんだ箇所で引っかかる。自分でフタをして毒ガスの部屋に閉じ込められるというトラップだ。
「ということは箱は分解して持ってきて、ここで組み立てたということか。そしてそれに気づいたヤツ相手のトラップもあるな。コイツはそういうヤツだ」
さて、ここで[エコーズ・クリア]を使えればそのトラップを見破れるのだが、オレの[異能力]は太古にいたというコウモリ亜人の遺伝子のせいらしく、音響反射をもとにしているらしい。気密服の中では使えない。
「ま、だから先に見ておいたんだけどな」
宝箱の中は空っぽだ。箱ごと持っていってもアウト、箱をバラしても価値が無くなってアウト。だが──。
豪華な宝箱を抱え上げ、横に置く。そして下に埋まっていた小さな宝石──本命の宝を手に入れた。
※ ※ ※ ※ ※
「ふいーーー、ダンジョン攻略してからの地上の空気は美味いなぁーー」
装備を外し、白の短髪を掻き、細身だが筋肉質の身体を伸ばし達成感に浸っていると通信が入る。
「サーチ、任務遂行したんなら連絡してよ」
「地上に出ればGPSに反応するんだろ。それでいいじゃないか」
「またそんなことを言う……」
アンとのつきあいはそろそろ1年になろうとしているが、出会ったばかりの時はもっと強気な感じだったのに、最近はやたらと傷つきやすい。あれで財団の理事長をやれるのかと疑いたくなる。
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