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一章:大陸中央都市(セントラル)へ
徒歩で7日かけてオレの住んでるソーゲン村のギルドに到着、ギルマスの妻キャシーさんに水をくれと開口一番に頼んで、いつもの席に倒れ込むように座った。
「っつああ、疲れたぁぁ」
「わざわざ歩いて行くことないだろうに、財団からクルマとか支給されないのかい」
「頼めばくれるだろうけど、借りはつくりたくない」
運ばれたのはジョッキに入った常温の水、それを受け取り軽くひと口含む。どんな時でもまずは確かめろ、それが冒険者だった親父シーカーの教えだ。
喉を湿らして飲む、身体中にしみ渡る水分に喜びを噛みしめる。この一杯のために生きてるなぁって思うよ。
「それと遺跡やダンジョンまわりを荒らしたくないし、ソロだから見張りもいないしね」
「またパーティ組めばいいじゃない。仲の良いメンバーがいるんでしょ」
「いない、いない」
「つれないコトいうなよサーチ」
物影から出てきたのは顔馴染みの熟年男、元盗掘屋ボゥロ・ダイドーだ。驚いて飲みかけの水を吹き出すところだった。
「ボ、ボゥロ、どうしてココに」
「よ、キャシー久しぶりだな。相変わらずキレイでうれしいぜ。トーマスのヤツはどうしてるんだい」
「アンタの後ろから銃を構えているよ」
慌ててボゥロは後ろを振り向くがギルドカウンターには誰にもいない。それを見てキャシーがケタケタ笑う。
「ウソだよジョーダンさ。ボゥロが来てちょっかい出したらそう言えって言われたのさ」
「なんだよもう。人妻になったお前にちょっかい出すもんか、ああびっくりした」
茶髪をかき上げまとめた頭に、日焼けした肌。白いティーシャツの袖は肩までまくり上げ、ジーンズにゴツい靴。肝っ玉母さんみたいな性格のキャシーは、オレの母親代わりでもある。
正直、オレの周りにいる唯一の女ではあるがとても異性としてみられない。なのにギルマスのトーマスとボゥロが昔取りあったというのだ。とても理解できなかった。
「まったく。話を戻すぞサーチ。なんども財団に来るように言ってるのに何で来ないんだ」
「行きたくないからに決まってるだろ、依頼された仕事はしているしレポートも回収したお宝もギルド経由で送ってある。問題ないだろ」
「ありありだ。お前がこないもんだから理事長が、アンが落ち込んでいる。おかげで財団の業務が滞ってるんだよ」
「オレは関係無い」
「サーチ」
ボゥロがつかつかと近寄り、小声で話す。
「お前だって分かっているだろうアンの気持ちを。会って優しくしてやれよ」
「あのなボゥロ、オレだってオトコだ。アンのことは可愛いと思っているさ、だけどアンがオレに好意を持ってるとしてもそれは一時的なものだ。吊り橋効果ってやつさ、危険な場所でたまたまオレが助けたから勘違いしているだけだよ。離れていればそのうち忘れるさ」
そうさ、一時的な勘違いだよ。冷めてくれれば面倒くさい人間関係も解消される、それまで会わない方がいいのさ。
「そのうちじゃ困るんだよ、今すぐ何とかしないと。それに今回はアンのためだけじゃない、女王からの命令なんだ、必ず連れてこいってな」
1年近く前、オレとアンとボゥロそれにディフィで未発見の迷宮に挑み、お宝を探し当てた。それは[王国の至宝]と名づけられたティアラで、なんとアンの御先祖様の遺品だった。
そして驚くことに、それには神話の頃に存在した王国の女王の魂というか人格がはいっていて、子孫のアンを依代にして現代に蘇ったのだ。
「あいつまだ成仏してないのか」
「こらサーチ、無礼だぞ」
「女王ったって結局は幽霊みたいなもんだろ。アンに取り憑いてる悪霊みたい──ぐあぁぁ」
急に胸というか心臓が締めつけられ苦しくなる。
「どうしたサーチ」
「胸が、心臓が、手のようなものに締めつけられているぅ」
「わお、ホントかよ。サーチとりあえず女王に謝れ」
「な、なんでだよ」
「お前、女王と契約したろ。どんなに離れても霊的に繋がっているからお前の反抗心が伝わるんだとよ、とりあえず謝れ、不敬でしたと言え」
言いたくねぇーー、だが本気で苦しい、しょうがねえ。
「……不敬でした」
途端、心臓が楽になった。本気かよ、本当に女王のチカラなのか。
苦しくてテーブルに突っ伏していると、近づいてくる足音がする。大股で力強い聞き覚えのある音。
「はっ、素直に言うこと聞けばいいのに駄々をこねるからそんな目にあうんだよ」
やっぱり自称幸運の少女のディフィ・ナイキか。顔を上げ、ザマアミロと言わんばかりのニヤニヤ顔が鼻につく。
大柄でマッチョの元警察官、しかも女だてらに機動部隊の隊長だったディフィは退職したあと女性専門護衛会社ディアナの社員に就職し、アンに雇われたのが縁で現在は財団の警備主任という立場だ。
「なんでディフィまで来てるんだ、アンの護衛が仕事なんだろ」
「はっ、アタシだって離れたくなかったさ。サーチがいつまでもゴネるから女王様直々に連れて来るように命令されたのさ」
財団支給のスーツなのかボゥロと同じデザインのスーツ姿で、つかつかと近づくとオレをネックブリーカーのように吊り上げる。
「もうアンタの意思は関係無い、気絶させて箱詰めにして財団まで配送してやるよ」
「ひ、人を荷物扱いするな」
「はっ、文字どおりお荷物だろ。財団に行くというなら人間扱いで送ってやるけどどうするんだい」
ひでぇ二択だ。だがこうなると選択肢はひとつしかない、オレはしぶしぶ中央都市にある財団へと行くことにした。
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