一章:大陸中央都市(セントラル)へ

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  オレの住んでる村は[ソーゲン]といい、イーストリア大陸の東端よりちょっと内陸部にある。わりと高台でへき地だが、掘り起こされたダンジョンの観光地として知られている。  ソーゲン村があるカーリン州の首都まで行くには麓の街までケーブルカーで降りる必要がある。駅に行く前に待ち合わせ場所のギルドに出向くと、トーマスとキャシーのギルマス夫婦とボゥロにディフィ、そして何故か村長まで待っていた。 「サーチ、ちゃんとした格好で来いと言っただろ。なんで探検服なんだ」 オレの姿を見てボゥロが呆れるように言う。 「なんだよ、ちゃんとした格好だろ。よそ行き用の探検服だぞ」 「よそ行きの探検服なんてあるか。スーツ持ってないのか」 「村で着る機会が無いからあるわけないだろ」 「普段着は? ティーシャツとかジーンズくらいないのか」 「……持ってない」 「はあ!? トーマス、キャシー、どういうことなんだ」  ボゥロが詰問するようにギルマス夫婦に言うと、ふたりは渋い困り顔しながら言い訳がましくこたえる。 「ボゥロもサーチが偏屈なの知ってるだろ、友達いないから出かけないし、独り暮らしだから身だしなみを気にしない。キャシーのおかげでかろうじて探検服を洗っているレベルなんだよ」 「なんてことだよ……」  そんなに嘆くことなんだろうか。  ディフィはもともとスーツ姿で会ってるから違和感ない、黒のアフロに褐色の肌、ピンストライプの茶系のスーツに白の開襟シャツは見慣れている。  ボゥロは白シャツにピンクのネクタイだが、同じ格好でどうも財団の制服のようだ。出会った頃はだらしない腹が出た体型だったが、あらためて鍛えはじめているらしく大分締まった身体つきになってスーツが似合うようになっている。つまりオレもそういう格好をしろということらしい。 「はっ、ボゥロ、嘆いていてもしょうがない。大陸横断鉄道の予約時間までに何とかしよう」 「しかたねぇな。とりあえずケーブルカーに乗るぞ、トーマス、キャシー、それじゃな」  ふたりはオレの両脇を掴んで連行するように駅に向かう。そんなオレに村長がくれぐれも粗相の無いようにと言いつづけた。 ※ ※ ※ ※ ※  ケーブルカーに乗り込み降っていくなか、ボゥロは対面に座りディフィは離れたところに席をとった。 「なんで離れて座るんだ」 「お前の知り合いと思われたくないからだろ。着いたらすぐに量販店で服を買うから着替えろよ」 「そんなにおかしいのか」 「あのなサーチ、服装というのはその場所に相応しい格好をするもんだよ。もし俺がこの格好でダンジョンに行ったらどう思う」 「正気を疑うね」 「分かってくれて嬉しいぜ」  言いたいことは分かったが納得はできなかった。この探検服は誇りを持ってやっている仕事の仕事着なのだ。それを変な目で見られるのは面白くなかった。  ケーブルカーが麓の駅に着くと、急かされるように降りてふたりは携帯端末機で最寄りの量販店を検索し、ボゥロとオレはそこに向かい採寸してもらってから、ジーンズとティーシャツにカジュアルなジャケットを購入して、その場で着替える。探検服は袋に詰めてもらい荷物となる。  そこから大陸横断鉄道の駅に向かい、先に来ていたディフィと合流。個室席に案内され座ると同時に列車が走り出した。 ※ ※ ※ ※ ※  この大陸横断鉄道はイーストリア大陸の南側を走っており、ほぼ東端から西端まで繋がっていて走る高級ホテルとしても有名である。自由席でもよほどの物好きでない限り乗車賃が高くて二の足を踏むのに、個室席ともなれば何かのお祝い事か記念でもなければ一般庶民には高過ぎて乗る気になれないだろう。その個室にオレ達はいる。 「ほんとにこの席であってるのか。あとで間違えてるから罰金払えとか言われるんじゃないのか」 「ちゃんとあってるからそう怯えるなよ。まだ自覚してないようだがサーチは財団のVIP(最重要人物)なんだからな」 「それだ」 「なにが」 「なんでオレなんかを重要視するんだ。ただの冒険者だぜ、しかもダンジョン専門の地図屋(マッパー)なんだ。もちろん仕事には誇りを持っているが、こんなによくしてもらう覚えはない。それにダンジョン攻略ならこれだけの金持ちなんだ、最新鋭の機器を使えばオレよりももっと効率よく[王国の至宝]が手に入るだろ」 「カムフラージュを兼ねてそれ以外の遺跡発掘調査は機器を使うが、財団の真の目的は[王国の至宝]を手に入れることだ。それを大っぴらにやるわけにはいかない。それらしい情報を手に入れたらサーチの出番となる」 「ただの冒険者なんだが」 「冒険者じゃないだろ、異能力者(ジーン・ホルダー)」  ボゥロがからかうように言うので、ムッとして横を向き外を見る。 ……異能力者(ジーン・ホルダー)、それがオレの特徴だ。これのおかげでダンジョン攻略という日常から、[王国の至宝]を探すという非日常の世界に首を突っ込むはめになってしまったのだ。  窓の外は景色が飛ぶように流れていく。クルマかケーブルカーしか乗ったことのないオレはその速さに驚くが、すぐに飽きて能力について考える。
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