一章:大陸中央都市(セントラル)へ

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 異能力者(ジーン・ホルダー)というのは異能力(ジーン・ギフト)の持ち主で、使というのが暗黙の定義となっている。  遥かな昔、神話の時代には亜人と定義される獣人がいたといわれている。現代においてはもちろんいない。  たが、ときおり動物のような特技レベル(鼻がよくきくとか夜目がきくあたり)から特殊能力レベル(5分くらい水中にいられるとか3メートルくらいジャンプできるとか)の身体能力の持ち主がいる。  それらは揶揄をこめて人外扱いつまり亜人の子孫だといわれ、それが異能力者(ジーン・ホルダー)という蔑称となったのだ。  オレが異能力(ジーン・ギフト)に目覚めたのは10歳の事故にあった時で、天涯孤独にもなったこともあって親代りとなってくれたギルマス夫婦は能力を隠すように育ててくれた。なのでひと前で使うことなく比較されることなかったので、大きなトラブル無しで成人し、そのままギルドで能力を活かし冒険者としてやってきた。  ところが1年近く前、亜人そして異能力者(ジーン・ホルダー)に会ってしまい、この世に本当に実在することが分かってしまった。 「ボゥロ、その後ジョンについて何か分かったか」  初めてあった異能力者(ジーン・ホルダー)ジョンは快楽殺人者(シリアル・キラー)で、ダンジョン攻略パーティーに潜り込んでは何十年もメンバーを全滅させることを秘密裏にやってたイカれたヤツだった。カメレオンの能力を持ち、アンとボゥロとディフィそしてオレもコイツに殺されそうになったが、オレが倒し結果的にこの世にいなくなった。  ずっとだまっていたオレに突然話しかけられてちょっと驚いたようだが、少し考えてから話しはじめる。 「正直あまりわかっていない。快楽殺人者(シリアル・キラー)らしく自分の殺害記録を残していたのはわかっている。ただそれらは警察が押収してしまったので、その先はわかってない。ディフィ、何かきいてないか」  ディフィは元警察官だ。ひょっとしたらとオレも期待する。 「はっ、アテにしてもらってもダメだね。辞めてけっこう経つから同期とも疎遠になってるからね」 「元旦……じゃない、パートナーだった方からは訊けないのか」  ディフィの元結婚相手は現役の刑事だ。格の不一致で別れてしまったが、向こうはまだ未練があるときいている。 「それこそ無理無理。会えばまたどうして離婚したか訊かれるんだし、よりを戻さないかと言われるから会いたくない」  断固として拒絶すると言わんばかりの勢いだったので、これ以上訊くのはオレもボゥロも諦めることにした。 「……ただ」 「ん?」 「このあいだ会って話したんだけど、妙なことになっているらしい」 「妙なことって?」  ディフィが近寄ってきて小声で話す。オレ達も顔を近づけて聞き耳を立てる。 「プルーンってきいたことある」 「フルーツのか」 「そっちじゃなくてイーストリア連邦の特務機関の方、その存在自体有るかどうか分からない謎の政府機関なんだ」 「連邦警察の公安とか情報機関みたいなところか」 「いや、そことは別の都市伝説的な存在の機関で何をやっているかも分からない。けど、そこの連中が突然やってきて捜査打ち切りにしたうえに証拠資料を全部持っていったらしい。ランス──元パートナーが、いったい何に首を突っ込んだんだって訊いてきてさ、誤魔化すのに苦労したよ」  おいおいきな臭くなってきたぞ、変なことに巻き込まれる予感がする。というかもう巻き込まれているようだ。 「その事はアンに話したのか」 「ああ。さすがに話しておかないとヤバいと思ったからね。元同僚から秘密裏に教えてくれた体で伝えたよ」 「プルーン……たしか[剪定]って意味もあったな。そこの連中がジョン──というか異能力者(ジーン・ホルダー)の資料を持っていった。……ディフィ、ここの個室席をアンが選んだのは話したあとか」 「そう……だね」  ボゥロとディフィが顔を揃えてオレを見る。何が言いたいかはわかった、連邦が国がオレを狙ってくるかもしれないということか。  イーストリア連邦はその名の通りイーストリア大陸全土にまたがる国だ。目をつけられればどこにも逃げ場がないことになる。 「連中の目的は解らないが、サーチが異能力者(ジーン・ホルダー)だということは隠しておいた方が良さそうだな」 「アタシも同感だ。アンに危害が及ぶかもしれないからね」 「お前も気をつけろよ。なるだけ──じゃない、絶対に人前で能力を使うなよ。俺に危害が及ばないようにな」 「……ウソでもオレのためにって言ってくれよ」  どっちにしろわざわざ自分の首を絞める気はない。自分の平穏無事な人生のために隠し通すさ。 ※ ※ ※ ※ ※  3日間の列車旅を終えて、大陸中央南部にある中央都市(セントラル)に到着した。  大規模複合施設の駅にはホテルもあり、降りるとすぐにそこの最上階の一室に連れてこられる。そこにはボゥロ達と同じスーツを着ている初老の男と似た顔の若い男が待っていた。 「おふたりともお帰りなさいませ。そちらがゲストのサーチ・ヴェルマーク様ですね、はじめましてアン様付きの執事セバス、こっちがバトラスといいます。よろしくお願いします」  洗練された仕草と口調、スキのない身だしなみ、セバスへの第一印象は「コイツ……デキるな……」だった。
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