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ワクチン電波が発信されると人々の洗脳は解けた。イヌ星人達は愛情を糧とする半面、負の感情が苦手なのか、大勢の人々の悲鳴に追い立てられるようにどこかへ姿を消してしまった。恐らく下水道にでも逃げ込んだのだろうと当たりを付け、あの日以降、黒猫団と白犬会は彼らの行方を追い続けている。
謎の生物の出現、犬達の大量失踪、数々の犬事業の倒産で、暫く世間はごたついていた。しかし人間とは強かな生き物で、一年も経つと世間の興味はすっかり他と入れ替わっている。政府が裏で工作したのかもしれない。
何はともあれ、いつも通りの生活が戻っていた。
「やっぱり猫が好き~!」
私は仕事終わりの猫カフェでうっとりその姿を眺めた。
犬ブームの次は猫ブーム。猫カフェは平日の夜にも関わらず混雑している。店長の根古も、先程から店の中をバタバタしていた。大変そうだなと見ていると、足元にタマが擦り寄って来る。タマからこんな風に甘えられた事のない私は驚きと感動で震えた。
「嬉しそうだね」
客の帰りを見送った根古が肩越しに覗き込んでくる。
「はい、こんなに甘えてくれて! 大満足です!」
「僕は不満。店だと落ち着いて話せない。今度、一緒に出掛けない?」
「え!? ど、どこへ?」
「……猫カフェとか」
「あーなるほど! 敵情視察ですね。いいですよ、お供します」
私の回答に、根古は複雑そうな顔をした。私にはその理由が分かっていたが、まだ受け止める余裕がない。必死で鈍感なフリをする。
タマは喉が渇いたのか、私の手をすり抜けていった。その愛らしい背中を名残惜しく見つめる。猫とは何て美しい生き物なのだろう。ずっと見ていられる。
タマは細い脚でカサカサ歩き、体を水入れに屈めると、ストローのような口でズズッと啜った。
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