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ピチューン! と銃声が鳴る。……ピチューン?
レトロシューティングゲームの狙撃音の様なそれに、恐る恐る目を開けると、スーツの男は床の上で大の字になっていた。
呆然とする私の横を、背後から現れた誰かが颯爽と通り過ぎていく。色素の薄い柔らかそうな猫毛。丸まった背中に担ぐのは、大きな水鉄砲? どこか見覚えのあるその後ろ姿は、スーツの男をブーツのつま先でツンツンした。
「マタタビ光線銃、効果抜群だね」
(マ、マタタビ?)
スーツの男は死んではいない。酔っぱらったような赤い顔でムニャムニャ言っているだけだ。猫毛男はSFチックな鉄砲を抱え直し、もう一方の手でジャケットから短銃を取り出すと、それをミル貝達に向ける。
「僕の仲間から離れてくれる?」
底冷えするような声。ミル貝達はビクリと跳ねると、もの凄い速さで、小型犬サイズの小さなドアからどこかへ去ってしまった。男は「待て!」とそこを覗き込むが、取り逃がしてしまったらしい。悔しそうに舌打ちをする。
「あ、あの」
私はカラカラの喉で何とか言葉を絞り出した。男がこちらを向く。その頭にも今私が付けている物と同じ猫耳カチューシャが付いていた。彼の足元にはいつの間にやって来たのか、喉をゴロゴロ鳴らすタマの姿。
「店長……これは一体?」
彼は行きつけの猫カフェの店長、根古圭介だ。
根古は円い瞳をきゅっと細め、私の姿を疑わしそうに見た後「なんで君がここに?」と首を傾げた。
「タ、タマに連れられて」
助けを求めるようにタマを見るが、タマは知ったこっちゃ無さそうである。根古はタマを抱き上げるとその額を小突き、何故か「困った奴だな」と少し優しく言った。
――その後、倉庫には数人の猫耳人間がぞろぞろやって来た。彼らは黒スーツを縛り上げ、血を流して倒れていた仲間を介抱する。命に別状は無いようでとりあえずホッとした。いや、全然ホッとできない。何だこれは、どういう状況だ? 混乱して黙り込む私に、根古がよく知る店長顔で話しかけてきた。
「久しぶり……三ヶ月半ぶりだね。その猫耳はどうしたの?」
相変わらずタメ口だな、とか。私はそんなに長く彼の店に行っていなかったのか、とか。よく覚えてるな、とか。それらは猫耳姿を見られた恥ずかしさで吹っ飛んだ。彼も人のことは言えないが、妙に似合っている。
「さっきそこで拾ったんです」
「ああ。彼が落としたのか」
根古がタンカーの上の仲間を見た。
「え! あ、お仲間さんの? 返します」
「いや待って。外すか外さないかは、話を聞いてから決めた方が良い」
「話って?」
「それを付けてしまったからには、君も見たんだよね? あの化物を」
「あっ! そう、それですよ! あれは一体何なんですか!?」
「あれは――イヌだよ」
彼の回答に、私はポカンとした。
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