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根古の話によると、あれは地球外生物――通称“イヌ星人”。
近年地球に飛来し、特殊な電波で人間を洗脳して、身近な動物“犬”に成り代わっている。人々の愛情を利用し、人間社会の支配を企てている侵略者だということだ。
根古は猫への強い愛で洗脳に打ち勝ち、猫愛好者を集めると、地球と猫を守る秘密組織『黒猫団』を結成したらしい。私は彼に猫愛好者として認められなかったことを悔しく思った。
ドッグタワーは洗脳電波塔。イヌ星人の洗脳電波を増幅させ、あらゆる電子メディアを介して人々を操っているという。
今夜、黒猫団は洗脳電波の送信を止め、人々の洗脳を解除するワクチン電波を流す為にここに来た。そして手分けして送電室の場所を探っていたところ、一人の団員が当たりを引き……先程のスーツの男にやられたという訳だ。
「スーツの人は何者なんですか?」
「“政府の犬”だよ。今の日本のトップは、イヌ星人達に完全に支配されてる」
私の頭はパンクした。
「冗談ですよね? 最初から全部」
「冗談だと思うなら、カチューシャを外してみなよ。それはイヌ星人の洗脳電波を防御するもの。外せばまた妄信的なイヌ信者になって“お手会”にも参加できるよ。行ってらっしゃい」
まさか見られていた訳ではないだろうが、私はドキリとした。そして先程までの自分を思い出しゾッとする。知ってしまった以上戻りたいとは思えない。触手のお手なんて御免だ!
「嫌なら付いて来て。君はもう僕らの仲間だと思われてるだろうから、一人で居るのは危ないよ」
根古が天井付近を見ながら言った。そこでは監視カメラが丸い目を光らせている。
「大人しくしていれば守ってあげる。大事な常連さんだからね」
黒猫団の誰かがヒューと口笛を吹いて、根古に睨まれていた。
私は何だかとんでもないことに巻き込まれてしまったな、と思った。
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