22人が本棚に入れています
本棚に追加
私は大の猫好きである。猫の神聖な目、上品な口、自由気ままなところが良い。今は猫カフェの猫や地域猫を指を咥えて見ているだけだが、いつかペット可のマンションに引越し猫と幸せな生活を送ることを夢見て、日々を生き抜いている。NO CAT NO LIFE! ――だったのもついこの間までの話。
最近はもっぱら犬派である。
「おはようございます」
朝、アパートから最寄り駅に向かう道。私はすっかり顔馴染みの近所のナントカさんに挨拶をした。ふくよかな老婦人は人の良い笑顔で「アラアラおはよう」と返してくれる。私はお預け状態からヨシと許されたかの如く、鼻息荒く彼女の足元にしゃがみ込んだ。そこにはまさしく天使の姿。
「ポメちゃん、今日も可愛いね~」
私はポメちゃんの長い顔をめいっぱい撫でる。ポメちゃんは嬉しそうにはしゃいでくれた。以前は猫の素っ気無いところが好きだったが、ポメちゃんに全力で甘えられてコロッといってしまったのだ。
ポメちゃんの顔が縦にパックリ割れ、長い舌が私の手をベロベロ舐める。それは手から肘、二の腕まで巻きつくように這い上がってきた。表面に突起のある三枚の舌が、私の腕を抱きしめる。
「ふふっ、くすぐったい」
「こ~らポメ! ごめんなさいね、朝の忙しい時に」
ナントカさんが余計な気遣いで、ポメちゃんのリードを引いた。アスファルトに貼りつく触手がズルズル音を立て、私の至高の触れ合いタイムは終わりを告げる。私は天使の背中を、いつまでも名残惜しく見送った。
最初のコメントを投稿しよう!