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「吐き気とか、頭痛はない?」 「はい、大丈夫です」  青島が太田を殴り飛ばした後、すぐに数人の教師を交えて飛び出した生徒が戻ってきて、広がる惨状に絶句していた。  すぐに男性教諭が太田を起き上がらせて別室に連れて行き、陽希は手を怪我していた青島とともに保健室まで運び込まれたのだ。  老齢の保険医の柔らかな声に、はきはきと答えれば、最後にうんと微笑まれた。 「ちょっと血は出たけど、傷は小さいからすぐに治ると思うよ。でも、万が一頭痛や気分が悪くなったらすぐお医者さんに行こうね」  なにかあっても大変だからね。  再び柔和な笑みを浮かべたまま、保険医は手元にあった書類へ記入をし、少し出てくると言って一度保健室を出た。  急に二人きりにされて、心の準備が出来ていなかった陽希はソワソワしてしまう。  静まりかえった保健室で、陽希は丸椅子の上でそっと身を竦めながらチラリと隣の青島に視線を流した。  青島はむっすりとした顔で、同じように丸椅子に座って口を引き結んでいた。その手の甲には白い湿布が貼られていた。  湿布の下からは赤くなった皮膚がかすかにのぞいていて、その痛ましさに陽希はつい顔が歪んでしまった。  教師たちが到着したとき、教室内は明らかに青島が太田を殴ったと分かる状況だった。驚いた教師は始めに青島を取り押さえようとしたのだが、そこを陽希や飯山たちの言葉から誤解が解けたので一安心だとは思うのだが……。 (なんで青島くんが来てくれたんだろう……)  帰りのホームルームも終わっていたし、てっきりもうバイトにでも向かっていると思っていた。そこで陽希は、そうだバイトがあるじゃん……! とあたふたして顔を上げた。 「青島くん! ……バイトは大丈夫なの!?」  急に慌てだした陽希に青島はビクリとした青島だったが、言葉を聞くと、ほっとしたように脱力し、組んだ足の上で頬杖をついた。 「テスト前だから、今週はシフト入れてない。母さんに、テストの前は休めって言われてるから……」 「そっか……」  それならよかった。自分のことみたいに胸を撫でおろすと、青島はじっとこちらを見てからぐっと苦い顔をした。なにかこみ上げる感情をこらえようとしているみたいだ。  どうしたのかとチラチラと気にかけて見ていると、ふと青島と眼がかち合った。  久しぶりにまっすぐ彼の瞳を見た気がした。薄い虹彩の瞳に、どうしてか熱のこもった温かな感情を見てしまい、ぽっと陽希の頬が赤くなった。心臓がドキドキしている。 「頭の怪我、大丈夫か?」  不意に訊ねられ、陽希はどもながらも笑顔で答えた。 「う、うん。大丈夫! 傷も意外と小っちゃかったし、ほんとにもう痛くないから」  両手で拳を作って微笑み、平気だとアピールしてみた。が、青島はよほど心配なのか消沈した瞳はなかなか陽希からは外れない。  そんなに重傷に見えたかなあ、と陽希は首を傾げつつ「本当に大丈夫だよ?」と答えた。 「青島くんこそ、手痛くない? 赤くなってるけど」 「殴った直後はじんじんしたけど、今はそこまでじゃない。……人なんて初めて殴ったけど、硬いんだな……」  ふと、青島は自分の手に眼を落とした。 「人なんて初めて殴ったけど、結構硬いんだな……」  感慨深そうに呟く姿を横目に、硬いんだ……ときっと陽希は一生使う機会のない知識を頭にしまいこんだ。 「どうして、あのとき太田先生を……その、」  状況だけを見れば、陽希を助けに入ったように見える。――いやきっとそうなのだろう。  だが、人を殴ったこともないような青島が、陽希を守るためとはいえ誰かに手を上げるようなことをするだろうか。  まさか太田の横暴はクラス問わず行われていて、青島もその標的にされていたのでは?  母子家庭の飯山に対して当たりが強かったので、想像は容易だった。  ならば、優しい青島が手を上げるほどの鬱憤を溜めていたということだ。いまさらながら、太田への怒りがメラメラとこみ上げてきて、陽希は悔しい気持ちになった。もっとしっかり言ってやればよかった! そう内心憤慨していると、 「お前が怪我して……しかも怖がってたからついカッとなって……」  青島が俯きながら呟いたのだ。 「バイトないし、お前と話がしたくて廊下で待ってたら……急に大声出しながら生徒が走って行って…それで走って駆け付けたらお前が頭から血流してるし、怖がってるしで頭に血が上った……急に殴るのはやり過ぎたとは思うけど、後悔はしてない」  ぼそぼそと言い訳みたく彼は付け足した。  じわじわと胸が温かくなって、陽希の身体がすぐにその熱とときめきでいっぱいになった。  この感情は幸福だなんて言葉だけで表現できるものではなかった。  自分を待っていてくれたこと。心配してかけつけてくれたこと。そして陽希のことを守ってくれたこと。嬉しくて、幸せで、けれど愛おしさに胸が切なく締め付けられた。  愛されていることを青島自身の言動から察して、嬉しくてたまらなかった。同時に、陽希を好きだと思うその気持ちが、青島に手を上げさせるようなことをさせてしまったという申し訳なさもあった。  でもこの胸を占める感情に名前を付けるとしたら、それはやっぱり幸福だったり愛おしいというのだろう。 「ありがとう、青島くん」  傷ついた彼の手をそっと両手で包み、陽希は微笑んだ。  好きという感情が溢れそうになる。彼が好きで、愛おしくてたまらない。けれど、再びこの気持ちを出すのは、しっかり青島と向き合って考え抜いてからだ。そう奮起して溢れそうになる感情を耐えた。 「人を殴らせちゃってごめんね……痛かったでしょ」 「そこまじゃねーし、殴ったのは俺が勝手にやったことだ。お前が気にすんなよ」  いつもより声が小さくて覇気がなかった。チラチラと視線をよこす姿は、親の顔色を窺う子供のようだった。  微笑んでいる陽希を認めると薄茶の瞳に温かい安堵が広がった。 (もしかして俺に嫌われてないから安心したの……)  陽希は太田に怖がるような素振りを見せてしまった。だから、目の前で人を殴った自分も怖がられると思ったのだろうか。 (守ってくれた人を……それも青島くんを嫌うわけないじゃん)  こそばゆいような、いじらしい気持ちがソワソワと脇立った。  途端に目の前の青島を体いっぱいに抱きしめて、大丈夫だよと安心させてあげたい。でも、そんなことをしたらビックリしちゃうかなとか。逃げられちゃうかもと思うと行動には移せなかった。  でもなにもせず、というのもなんだか嫌だったので、 「殴らせちゃってごめん、てなんか変だね?」  へへ、と場を和ませるように笑えば、「そうだな」と青島もおかしそうに目尻を下げた。  どこかお互いを探るようだった雰囲気が和らぐ。すっと呼吸がしやすくなって、陽希は今なら……と気持ちを切り替えて背筋を伸ばした。 「ねえ、青島くん。これは独り言なので気にしないで欲しいんだけど……」 「……おう」  独り言だって言ったのに青島は戸惑いつつ律儀に返事をした。けれど、言葉の通りそっぽを向いて素知らぬふりをする彼の姿に、陽希は小さく笑ってしまった。  やがて笑みを引っ込め、陽希も俯きながら独りごちた。 「俺ね、お父さんやお母さんにどうして結婚したのって訊いてみようと思う。二人が本心ではお互いをどう思ってるのか気になるから……それで、家族が良いほうに向かってもそうならなくても、後悔はしないって……そう決めた」  陽希の悩みも青島の悩みも、いつかは家族と話をしなくては解決しないだろう。  それなら陽希は、今決意を決めようと思う。自分の経験があれば、きっといざ青島が母と向き合いたいと思った時に寄り添えるはずだ。  なにより、陽希が今の中途半端な状態を嫌だとも思うのだ。 「怖いけど、そんなこと関係なく俺は二人を大好きだから。それだけは変わらないから……。それに、今の俺の世界は家族だけじゃない。青島くんのことだって好き。飯山くんも幸基くんも、友達だって出来た……だから、その先になにがあっても大丈夫だって思えるんだ」  これも全部、青島が陽希の中に愛を見つけてくれたから広がった世界だ。ありがとう、と感謝の気持ちで溢れる内心でそっと青島を見つめると、彼は黙り込んだままじっと陽希を見ていた。そこではたと気づいた。  もしやこの宣言をしたせいで、青島の行動を急かすようなことになってしまっていないか? 「あの、青島くん。違うからね?」  気づいた陽希は、慌ててつけ加えた。これじゃまた誤解させてしまう。 「俺が頑張るから青島くんもって話じゃないよ? これはただの決意表明っていうか……青島くんには知ってて欲しかったんだ。一人じゃ、また逃げちゃいそうだから……」  でもよく考えたら、急にこんなこと言われたって青島は困ってしまうだろう。 「ごめんね、こんなこと言って……気にしないで、俺が勝手に頑張ろうって思ってるだけだからさ」  苦笑する陽希の隣で、青島は淋しさと苦しさが混ぜ合わさった顔をしていた。けれど、どこか嬉しそうに……陽希がそう言うのを分かっていたような納得顔で、瞳を細めて陽希を見ていた。 「……お前はなんでそんなに強いんだ? 俺は怖くてたまらないんだ。確かめるのが怖い……本当に離婚が俺のせいだって分かったら。母さんが真実を知って俺を拒んだら。事実を知るのも、嫌われるのも、お前が受け入れたようには俺は出来ない」  窓から差す夕日の眩しさが、青島の細くなった瞳にも差し込んで薄茶の虹彩に温かな光りを宿した。艶を増した瞳が、陽希には泣いているようにも見えた。 「稲葉みたいに強くなりたい。でも、無理だ……俺には出来ない」  青島が吐き出す感情たちは、全て陽希にも覚えのあるものだ。両親から嫌われたら――それと向き合うことはきっと誰だって怖い。自分が父や母を好きであればなおさらに。そして、青島は今までお母さんのためにと頑張ってきた。ずっと諦めて受け身でいた陽希よりも怖くて当然だ。 「……受け入れて進むことだけが強さじゃないと思う。青島くんだって強いよ。子どものときからお母さんのためにって……お母さんに辛い思いをさせたからって、自分の身を粉にして動けるきみが弱いわけない」  黒い瞳で陽希は真っ直ぐに見つめ返した。泣いた子どもを宥めるように穏やかに笑んで、しかしキッパリとした言い切る言葉は、染み入るように青島に届く。 「青島くんは、俺みたいに見ないふりしてずっと逃げてた訳じゃない。自分がしてしまったことに向き合って、今までずっと一人で抱えていたきみが弱いなんて思わない」  陽希はずっと諦めて、何もせずに日々を過ごしていただけだった。けれど青島は違う。これまでの長い間、自分がしてしまったと思ったことと向き合い続けてきたんだ。  そんな青島が弱いだなんて、陽希は絶対に思わない。 「それに強くなりたいって青島くんが思ってるなら、その瞬間からその道は青島くんの前に出来てるんだよ。あとは進みたいときにその道を進んだらいいと思う」  そっか。道だ。  自分で口にしながら、なんだかストンと腑に落ちた。 「……ってなんか偉そうだったね、俺! ごめんね!」  言い切ってから、ジワジワと恥ずかしさが込み上げてきた。  ぽっと頬を赤くしてもじもじした陽希に、青島が小さな星が瞬くようなきらきらした瞳を向けた。 「……稲葉、」  なにか気づきを得たようなその瞳でパチリと瞬きすると、不意に陽希を呼んだ。そのまま薄い唇がゆっくりと言葉を形作ろうとしたとき、ガラリと保健室の扉が開いた。 「青島くん、ちょっといい?」  顔を出したのは、新任の若い男性教師だった。小さく手招きして青島を呼び寄せる。青島が向かうと、二人は保健室の外へと出た。 「稲葉くんはもう少しここで待っててね」  一人残される陽希を不安にさせないためか、教師はそう声をかけてから扉を閉めた。  ちらりと青島がなにか言いたげに陽希を見たが、あえなく扉に阻まれて見えなくなってしまった。扉にはめられた磨りガラスの向こうで、二人の影が遠ざかる。  「念のため、青島くんからも状況をかくにんするだけだから」  だから安心してね。と青島に気遣う男の声がかすかに聞こえた。その声も聞こえなくなって、陽希は一人の室内でほっと力を抜いて足を伸ばした。  ぐっと伸びをするように両腕を伸ばし、ふうと息をついたところで静かすぎる空気にどこかソワソワした。  保健室にはほとんど来たことがなかったので、この機会にと興味深く見渡した。  しばらくして、バタバタと随分忙しなく慌てた足音が耳についた。 (だれか忘れ物でもしたのかな……)  試験前の部活停止期間なので、生徒で残っているものなどいないはずだ。  または今回の陽希たちの件で慌ただしくしている教師のものか……?  どちらにしろ階段を上って教室やら職員室に向かうと思っていた足音は、なぜか真っ直ぐに保健室へと近づいてきた。  まさか怪我人か?  だが、あいにくと保険医は外に出ており、陽希しかいない。  本当に怪我人だったらどうしよう。保険医を呼びに行ったほうがいいかと内心で焦って思っていると、ガラリと勢いよく扉が開いて 「陽希ッ!」  と女性が叫びながら飛び込んで来た。 「お、おかあさん……?」  制服でもなく、教師のようにスーツやジャージでもない、半袖ブラウスに膝丈のスカートを履いたその女性は、たしかに陽希が毎日顔を合わせている母だった。  いつもきっちりまとめられている髪は乱れ、鞄だって肩紐部分を腕に巻き付けるようにして適当にぶら下げていた。  肩で大きく息をする姿に、一体どこから走ってきたのかと純粋に疑問に思った。 「どうしてここに……?」  戸惑いで漏れた声に反応して、母が陽希を認めた。足をもたつかせながら駆けよったと思えば、そのまま膝から崩れるように地面にへたり込んだ。 「先生とトラブルがあって怪我をしたって聞いて……どこを怪我したの? 大丈夫?」  苦しそうに肩で息をしながら母が動揺の声で言った。紙のように白い顔には、汗が浮かんでいた。  母らしからぬ大きな表情の変化に、陽希はポカンとして丸椅子に座った呆けた。 「どこが痛いの? 手当は? 病院は?」  血の気の引いた顔で、母は膝立ちで腰を浮かせると、陽希の両肩に手を添えて頭から爪先まできょろきょろと視線を巡らせた。 「……大丈夫。壁にぶつかったときに、画鋲の金具で擦って少し切っただけだよ」 「頭切ったの? 病院に行かないと!」  今すぐ行くわよ、と母はそのまま陽希の手を取って歩き出そうとするので、慌ててなんとか制止した。 「でも、本当にちょこっと血が出ただけなんだ……」  ほら、と前髪を上げて絆創膏を貼った額を出す。と、母はガーゼ越しに滲んだ血を見て、口を戦慄かせた。 「頭は怖いんだからね! とにかく病院には行くわよ!」 (本当に、大丈夫なのに……)  もう痛みだってない。全然話を聞いてもらえなくて拗ねるように思ったと同時、嬉しくもあって体中がぽかぽかしてきた。  母が戸惑いもなく陽希に触れた。それだけで嬉しいのに、いつも表情が乏しくなにを考えているのか分からない母が、今は心配だと丸わかりなぐらいに顔色を変えている。  陽希を思って顔を青ざめて病院へ連れて行こうとする姿に、じわりと胸に温かさが湧いて視界が滲んだ。  見開いた瞳で瞬きもせずに母を見つめていると、ツンと眼球が痛んで瞬きの瞬間にはらりと冷たいものが頬を滑った。  涙だ。陽希は今、嬉しくて泣いていた。  涙の向こうで、母がぎょっとしたように動きを止めたのが分かった。 「ど、どうしたの陽希……やっぱり頭痛いの? すぐ病院行こう? ね?」 「頭は、平気……」  ぐずっと鼻を啜ると、母は困ったような途方に暮れた顔で陽希を見上げた。  不意に手が伸びてきて、躊躇を見せるようなその迷う手の動きに、普段の母はいつもそうやっているな。と冷静な部分で思った。  また触れる直前で引いてしまうのだろうか。そう思ったが、母は恐々したように陽希の腕にそっと指先で触れ、次に手のひらを当ててさすった。  もう一方の手は背中に回って、やっぱりそちらもぎこちない繊細な手つきでそろそろと宥めていた。 「大丈夫。お母さんがいるから、大丈夫だよ」 「お、おかあさんっ」  はらはらと涙をこぼしていく陽希に、母は何度もそう言ってくれた。  大丈夫。なにももう怖いことなんてない。そう言うように。  さらに陽希の涙は際限をなくしていった。ぽろぽろと落ちる涙の向こうで、母が陽希を見つめる瞳がものすごく温かく見えた。  そこには、たしかな愛情が宿っているように見えた。  ――ねえ、お母さん。  しゃくり上げるうちに呼ぶことも出来なくなって、噛みしめるように嗚咽を漏らしながら内心で呼びかけ続けた。  今まで何度も何度も言えずに飲み込んだ母を呼ぶ声が、一気に堰を切って溢れ出したようだ、と思った。  あんまりに陽希が小さい子どもみたいに体を丸めて泣くから、母はやっぱり困った顔で、けれどどこか愛しいものでも見るように眼を細めた。  陽希の腕をさすっていた細腕が上がって、ゆっくりと指先が陽希の顔に伸びた。  傷に触れないようにか、母は指の背中でそっと陽希の前髪を撫でた。そのとき、指の関節がコツンと額と当たった。 (あれ、この感触……)  不意に、陽希の記憶の奥から呼び出された古い思い出。  祖父の視線から逃げるように母の後ろで縮こまっていた自分と、そんなときに時々ぶつかっていた母の手。  そうだ。あのときもこんなふうに微かに額とぶつかっていたのだ。  あの母の手の意図に気づいた陽希の胸に、形容しがたい熱い思いがこみ上げてきた。 「ふっ、う、ああああ……」  もしかして、と陽希は思った。  母はこうして、いつだって小さな愛を自分に向けていたのかもしれない。あんまりに小さくて些細で、母自身ですらおずおずと差し出すそれは、陽希が気づいていなかっただけで、もしかしたらずっとそこにあったのかもしれない。  陽希がないのだと決めつけ、探すことすら諦めていたから見えなかっただけで、最初からそこにあったのかもしれない。  わんわんと子どもみたいに声を上げて泣いた。  胸に巣くっていた淋しさを全部吐き出すみたいに。そして、空いた穴を慰めてくれる母の愛で埋め直すように。  しばらくして再び男性教師が呼びに来るまで、陽希はずっと泣いていた。母は冷たい床に膝をつきながら、一瞬だって離れずに陽希の背中を撫でてくれていた。
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