負け犬の雄叫び

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重い玄関の扉を開けると、何かがいつもと違うような気がした。 深夜のこの時間で家の中が暗いのは毎日のことだし、風呂場の方から漂うかびくさい匂いもいつも通りだ。俺はキッチンを抜けて、寝室に向かう。ふすまを開けると、部屋はきれいさっぱりだった。そこで、違和感の正体に気づいた。妻と娘がいないのだ。 キッチンに戻り、灯りのスイッチをつけると、机の上に紙が置かれていた。チラシの裏だと思われるその紙には、見慣れた妻の文字があった。 「娘と一緒に実家に帰ります」 俺の心には驚きよりも、むしろ納得する気持ちの方が強かった。会社の犬として何年も働き、家に帰るのはいつも日付が変わってから、休みの日もずっと寝ている俺が、妻や娘に見限られるのも当然の話だ。 誰もいない静かな部屋に、俺の腹の音が響く。こんな時でもお腹はすくんだなと、まるで他人事のように思った。
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