負け犬の雄叫び

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真夜中、家に帰ると、やはり妻も娘もいなかった。もしかしたら帰ってきているのではというわずかな希望は、線香花火が落ちるようにすっと消えた。 俺はソファに座り、胸ポケットからボイスレコーダーを取り出す。スイッチを押すと、かなりクリアに音声が流れる。 『もちろんさ、上司はさ、ポンコツな部下でもお、フォローしてあげるのが……』 昼間に聞いた課長のセリフがそっくりそのまま流れる。これは間違いなく、ハラスメントに引っかかるはずだ。俺はそう確信する。 続いて、スマホを取り出す。電話帳を開き、週刊〇×という名前を見つけた。これは、何年も前に、課長のハラスメントを週刊誌に密告してやろうと、調べた住所だ。その時は、家庭があるのにこんなことをしてはいけないと思いとどまった。しかし、俺には今、妻も娘もいない。失うものなんてない。 課長には、ハラスメントなんてこれでもかというほどやられた。今日のことなんてまだましだ。オフィスに響き渡るような声で怒鳴られたり、物を投げつけられたり、無茶苦茶な扱いを受けた。ストレスで胃潰瘍にもなった。心も体も、あの課長に壊されたのだ。いや、それだけではない。あいつのせいで、家庭だって壊されたのだ。俺はそう心にそう言い聞かせた。そう、あいつに仕返しするなら、今しかない。
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