負け犬の雄叫び

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昼休み、会社の近くの公園のベンチに座り、ぼんやりと曇り空を眺めていた。胸の中が、まるでがらんどうになったみたいで、心もどこかに落っことしたのではないかというくらい、何の感情もわかなかった。 今の自分の状況を振り返ってみると、おろか、という三文字が浮かぶ。仕事のためにあらゆるものを犠牲にして、結局は妻にも娘にも逃げられた。そして、半ばやけくそ気味で、パワハラを密告しようとしたのに、最後は怖気づいてしまった。俺の人生はいったい何なのだろうか。そんなことをふと思う。いったい何のために働いてきたのか。自分の人生の大半を仕事についやした結果が、今の状況だ。あまりに空しい。この先も、この空しさを抱えて生きていくのだろうか。 その時、公園の脇の道路に、一人の女性が歩いているのが見えた。それは、同じ部署の後輩の女子だ。その表情を見て、ぞっとする。顔は真っ青で、まるで幽霊みたいだ。 「おい、どうした」 俺は彼女に近づき、声をかける。彼女ははっとした表情を見せた後、その瞳がじわりと潤んできた。 「足立さん。聞いてください」 彼女は、涙ながらに話す。彼女がずっと夜も会社に残って作り上げた企画書を課長に提出したところ、ろくに読みもせず、突き返されたらしい。 「はあ? 突き返すなんて何が理由だよ」 「お前が作った企画書なんてどうせろくでもないだろうって、言われたんです。読むだけでもお願いしますって課長に言ったら……」 彼女はそこで鼻をすする。瞳からこぼれ落ちる涙を何度も拭う。 「逆に、怒られて。俺の、時間を、奪うなって」 彼女は声をあげて泣き始めた。通り過ぎる人間は、不審な目でこちらを見ていた。 俺は腹の底から怒りが込み上げてきた。あまりにひどすぎる。 「分かった。俺が課長に言うから、佐藤ももう泣くな」 俺の言葉に、彼女は泣きじゃくりながら、小さくうなずく。
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