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「課長、佐藤の企画書ですが、きちんと目を通していただけないでしょうか」
課長席の前で俺が言うと、課長は目を丸くしていた。
「いきなりなんだい、足立くん」
「佐藤から聞きました。企画書を読まずに、突き返したと」
彼はしばらくの沈黙の後、大きくため息をついた。
「あのねえ、僕だって暇じゃないの。ざっと見ただけで、ろくでもない資料って分かったからさ。どうせ通らない企画書を読んだって意味がないでしょ。時間の無駄」
課長の言い方に、ムッとする。いつもなら、ここで引き下がっていた。ぐっと自分の感情を押し殺していた。しかし、今日は、我慢できなかった。
「それは、上司としておかしいと思います」
俺の言葉に、課長のこめかみがピクリと反応する。
「上司ならば、部下に適切にアドバイスをするべきです。読みもしないなんて、職務放棄です」
「お前なあ、誰に物を言ってるのか分かってんのか」
その口調には、怒気が混じっていた。
「俺は課長だ。お前は部下だ。黙って言うことを聞け」
「いえ、課長の言うことは聞けません。佐藤は、夜遅くまであの資料を作っていました。その努力も認めず、それどころかアドバイスすることすら放棄するなんて信じられません」
「ふざけるな」
課長がどんと机を叩く。
「おい、足立。こんな生意気なことを言って許されると思うな。お前なんかクビだ」
般若みたいに顔を歪ませ、そう叫ぶ。
「分かりました」
俺は自分のデスクに戻り、自分の鞄をつかむ。
「私は私の意見を言ったまでです。それでクビになるなら、仕方がありません。今までお世話になりました。失礼します」
お辞儀をして、俺は外へと向かう。背後から声が聞こえたが、歩みを止めず、オフィスの外へと出た。
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