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雅美は1人教室にはいると、結人の周りには人だかりができている。
見なくてもわかる。
皆、結人にチョコを渡したいのだ。
「九条おはよう」
周りを押しのけて結人が雅美の前に姿を表す。
「あっ。おはよう御座います。」
今朝も交わした朝の挨拶。
2人が付き合い始めてまもなく、半強制的に雅美は結人の部屋へと移動することになった。
朝1番で顔を合わせたはずなのに、今日は結人と久しぶりに会ったような気分にさせられた。
いつもなら登校時も一緒にいくのだが、今日は結人が日直のため雅美より先に学校へと行ってしまったのだ。
「結人。俺からのチョコ受け取って」
「俺のチョコを。」
周りはガヤガヤと騒がしい。
雅美は見て見ぬふりをするように席に座った。
去年も大量にチョコレートを貰っていた結人だから、今年もそれと同じ位貰うであろうことは目に見えている。
女王様として親衛隊があり、上級生下級生共に慕われている結人なのだから当たり前だ。
そのうえ学校内以外にも読者モデルとして活躍してる結人なのでファンからのチョコレートも沢山届く。
雅美は複雑な気分で1限目の教科書を取り出して何も考えないようにしようとするが、周りが氣になって集中できそうもない。
それどころか不安が襲ってきてここにいたくないとさえ思えてせつなくなった。
去年の雅美は何も言えず、本人に直接渡す勇気もなく、チョコレートを結人の部屋のドアにかけただけだった。
恋人となった今も皆のように渡す自信が持てずにいた。
暗い顔をしていると菖蒲に背を叩かれた。
「九条ちょっといい?」
菖蒲は雅美を連れ出した。
「1限まで時間あるから琴の練習少し付き合ってよ。」
そう言うと雅美の手をぎゅっと握り歩き出す。
見ていられなかった。雅美の寂しそうな顔を。
音楽室のドアをあけると近場の椅子に腰を下ろす。
「マーちゃん大丈夫?」
余裕のなさそうな今にも壊れてしまうのじゃないかというような雅美を菖蒲は抱きしめた。
安心したのか雅美はそっと菖蒲の腕の中で涙をこぼした。
雅美の涙が治まるまで菖蒲はずっと雅美をあやすように抱きしめ続けた。
「おーぃ猫二匹いちゃつくのはいいけどそろそろ1限目始まるぞ」
ドアの外でニヤニヤしながら雪人が立っている。
「ご。。ごめんなさい」
雅美はバッと菖蒲から離れようとする。
「よーしこうなったら俺も雅をぎゅーするぞ」
そう言うと菖蒲もろとも雅美を抱きしめた。大きな身体にすっぽりと2人が収まって暖かい。
「押しくら饅頭みたいだね」
そういって菖蒲が笑った。
何も言わなくても雅美のことを誰よりも判っている2人だ。
「落ち着いたか雅?」
雪人がポンポンと雅美の頭を撫でる。
「ズルい僕も撫で撫でして」
菖蒲が口を尖らせると仕方ないなというように菖蒲の頭も撫ぜる。
「雅は我慢しすぎるからな。栗原がチョコレートを他の人から貰うのが嫌ならそういえば良いのに。」
「マーちゃんは奥ゆかしいんだから仕方ないよ。だいたい栗原も栗原だよこんな可愛い恋人を泣かせるなんて。」
菖蒲がプンプンしている。
雪人はそんな恋人の頭をもう一度撫でた。
「辛かったら保健室で休んでたらいい。俺が付き添うから。」
過保護な2人は顔を合せてウンウンと頷いている。
「大丈夫。病気じゃないですし。」
「じゃあ戻ろうか」
「はい。」
3人は音楽室を後に教室へと戻っていった。
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