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手を止めてカウンターと読書スペースのある方向へ歩き出す。本棚がズラリと並ぶ蔵書スペースは、たまに迷路に入ったみたいな感覚になる。
「小谷さん、終わった?」
本棚から顔を出すと、クラスメイトの図書委員、小谷 麻友が、読書スペースの卓の上でPOPを描いていた。用紙にはカラーマジックペンで色とりどりな文字が描かれていた。
「うん、もうちょっと」
卓に近づいて覗き込むと、うんうんと唸りながら一生懸命考えた、キャッチコピーのような宣伝が映えていた。新しく発売する小説の新刊で、これは小谷さんおすすめの本なんだそう。
「熱量がすごいね」
「え? あ、ごご、ごめん! やっぱり好きなものだから、どうしてもたくさん書いちゃう…」
褒めたつもりだったんだけど、小谷さんには皮肉っぽく聞こえたのか、必死に謝られた。
「いや、謝る必要ないけど。単純にすごい、って感心しただけだから。僕はこんなに書き込めないし」
褒め直してみても、小谷さんは椅子の上で小さくなっていた。まあ、いつも通りの反応、といえばそうなのか。これ以上褒めたらますます小さくなって、おとぎ話の小人サイズになってしまう気がしたので、ここでやめた。
「そろそろ終わりにしようか。また倉科先生に注意されちゃうから」
図書委員の顧問であり、国語の教師でもある倉科先生は、図書館のボスでもある、というか、僕たち生徒からそう呼ばれている。ポニーテールが似合う美人な先生だけど、さばさばしていてちょっと豪快な人だ。18時を過ぎると図書館にやってきて、作業なんかしていると強制退室させられる。
「明日には終わらせたいな。新刊の発売が来週だから」
小谷さんの手は、まだカラーマジックペンを握っていた。あと少しで描き終わるから、一気に描き終えたい気持ちもわかる。
小谷さんが窓のほうへ向く。後ろで結んだ三つ編み、夕日を照り返す眼鏡、その奥にあるまん丸い、綺麗な瞳。
これが僕、高橋 彩翔の青春、その1ページだ。
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