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『こども、やめます』  陸は、白い画用紙にくっきりと大きな文字でそう書いた。  それから少し考えて下の方に 『大ば りく』 と名前を書き足す。  学習机の真ん中に、画用紙を目立つように置き、念のため鉛筆削りでおさえた。  時計は7時半ちょうど。  ママは隣の寝室でまだぐっすり眠っている。  パパはいつものように、リビングのこたつに足を突っ込んだまま、こちらもやはり夢の中だ。  大庭家の休日はいつもかなりゆっくりめなので、二人が起き出すまでにまだ30分以上の余裕があるはずだ。    陸は昨夜のうちに用意しておいたリュックを背負った。足音を忍ばせて階段を降りる。  赤いスニーカーを履いて、玄関の扉を開けた時、 「りくぅ~?」  と二階から寝ぼけたママの声がした。  昔から、陸がなにか企むと、超能力の使い手のようにママはたちまち勘づく。  それ以上何か言われる前に、陸はそっと扉の隙間をすり抜けた。   夜明けの冬の空は低く、海の方から潮の香のする冷たい風が吹き付けてくる。 「うひゃ」  思わず悲鳴に近い声が出る。  部屋に手袋を忘れたけれど、もう引き返せない。  陸は顔を上げ、一歩足を踏み出した。  向かう先は、エブリスタウン唯一の24時間営業店舗で、生鮮食品はもちろん、レジャー用品、カー用品、家電、寝具、衣料品etc.…ペンギンキャラが目印の驚安の殿堂にまさるとも劣らない充実の品揃えで、街の人々の需要に日々応える総合スーパーマーケット『エブリスタート24』だ。   賑やかなポップで飾られた、ランダムで統一感のない陳列は宝探しのようでわくわくするし、店にはいつも誰かしら人がいて、みんな楽しそうに買い物をしている。  そんなエブリスタート24が陸は大好きだった。
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