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「あのクリニックの先生が、今私の大学で教えているって前に話したよね? あの先生からこそっと聞いた話なんだけれど、園田さんってね、バツイチなんだって。で、結婚していた時に、まだ小さかったお嬢さんを交通事故で亡くしてしまったんだって」
「えっ?」
父は新聞から顔を上げて栞の方を見た。
「生きていたら、その娘さん、私くらいの年齢らしいよ。きっと私が倒れた時、その娘さんの事が頭をよぎったのかもしれないねって、先生は言ってた。それですぐに駆け付けてくれたんだよ、きっと......」
栞は言い終えると、ソファーに座る父親の方をチラリと見た。
すると、剛は新聞をじっと見つめながら黙ったままだった。
そこでさらに栞は言った。
「私ね、お父さんが本当に好きになった人なら、また再婚してもいいって思っているからね。それが園田さんだったら俄然応援しちゃうから!」
そう言うと、完成したシチューを皿に盛りつけて、
ダイニングテーブルへ運び始めた。
父は黙ったまま、何かをまだじっと考えていた。
しかし栞はあえて気にしないようなふりをしながら、
サラダやフランスパンをテーブルに並べて行った。
2人で食卓を囲む頃には、いつもの父に戻っていた。
しかし、父の中で何か小さな変化が起こっているのを、
栞は感じ取っていた。
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