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その時、力強い声が耳元で響いた。
「もう大丈夫だ、安心して! 呼吸に集中しようか! 深く息を吸ったら、ゆっくり吐き出そうね。ふかーく吸って、そうそう、そうしたらゆっくり吐いてみようか。吐く方を長くね! 吸った時の2倍くらいの量を吐くんだよ! そうその調子だ、吸ってー、吐いてー......そうそう、もう一度吸ってー、吐いて―......いいよ、上手だ、そのまま続けよう! はい、吸って―、吐いて―......」
2人の様子を、
待合室にいた患者達が固唾を飲んで見守っていた。
医師は栞を抱きかかえたまま、栞に向かって力強く語りかける。
その声に、栞はなぜかホッとするような安心感を覚えた。
医師の声を聞きながら、栞はほんの少しずつではあるが、
呼吸が落ち着いてくるのを感じていた。
着実に、苦しさが解消されている。
医師は栞に根気よく言葉をかけ続けながら、
背中に手を添えグッと力を込める。
背中を押した後は、
優しくトントンと叩いてからまたグッと押す。
繰り返しの手の動きは、
栞の呼吸に合わせているようだった。
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