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夜光
遠くから自分の名前を呼ばれている気がする。体が重苦しい。意識は目覚めているのに、瞼が重たくてなかなか開けない。
誰かが俺にのしかかっているような感覚だ。
石のように固まっている身体は言うことを聞いてくれない。思考だけが、必死に動き回る。
もしかして、金縛りってやつなのか? 怖えぇ、これで目開けたら幽霊見えるとか? だったらこのまま目覚めないで二度寝すれば良くね? ってか、マジ怖えぇんだけど──!! どうすんの? これ?
『雅哉』
慌てふためく脳内に、今度ははっきりと俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。しかも、その声は。
「藍二?!」
ようやく閉じた瞼の鍵が解かれるように、薄暗い中にぼんやりと光が視界に入り込んでくる。それが徐々に鮮明になってくる。
懐中電灯で顎下から青白い顔を照らして、こちらをじっとりとした目で見つめている藍二のドアップの顔に、思わず「ヒッ!!」と短い悲鳴をあげてしまった。
ケラケラと笑って俺から離れた藍二に、ドクドクと尋常じゃないほどに震え上がった体と心臓。足りなくなってしまった酸素を浅く細かく吸入する。ヒュ、ヒュ、と音がするほどに恐怖心が湧き上がってくる。
目の前で笑うのは、確かに俺の親友藍二で間違いない。顔を見たし、目も合ったし、俺を呼ぶ声だってあいつのものだ。
だけど……だけど、今目の前にいるのは。
「……な、なんで……お前、足、透けてんの?」
震える唇を噛まないようにゆっくりと、乱れる呼吸を整える間もなく、震える指で足元を指差す。笑っていた藍二はその瞬間、ピタリと動きを止めた。
真夜中の静寂が一瞬にして舞い戻る。
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