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宵闇
次の日、藍二は学校に来なかった。
放課後、真昼の姿を見つけた俺は、おせっかいなのは百も承知で、藍二が辛いままなのは嫌だったから、彼女に声をかけていた。
「真昼、ちょっといい?」
「……うん」
俺がなにを聞きたいのか、薄々勘付いているのか、真昼はすんなりついてきてくれた。
「なんでさ、あいつと別れたの?」
やっぱりと言った顔で、真昼は困ったように俯いた後でポツリと話し始めた。
「……お父さんにね、怒られたの」
「え?」
「藍二くんが喧嘩してるとこ、見かけたんだって。止めに入ったら、お父さんまで殴られかけたみたいで。いくら子供の喧嘩でも、誰彼構わず人に手を挙げるような奴とは付き合わせれないって。見た目だけじゃなくて、中身まで非道なやつだって。学校に無断でバイトまでしてルールを破るような子に、真昼と一緒にいて欲しくないって。あたし、お父さんに泣かれちゃったの」
悔しそうに眉を顰めて、口元をキュッと閉めると、潤み出す瞳から涙がこぼれ落ちた。
「あたし……藍二くんがバイト始めた理由が、あたしの言葉のせいだって、言えなかった……そりゃ、人のこと殴ったり喧嘩したりするのはもちろん悪いことだけど……学校に内緒でバイトしてるのは、あたしがバイクの免許取れば良いじゃんなんて、軽はずみなことを言ったせいだから。それなのに、あたし、そのことお父さんに言えなかった……あたしまで、悪い子になる勇気が……なかったの。だから……」
ぽろぽろと頬を伝った涙が、乾いた地面を斑点模様に色濃く染めていく。
「なんだ、藍二のこと嫌いになったわけじゃないんだ?」
俺の声に、真昼は小さく頷いた。
なんだかホッとした。
どんな理由で喧嘩をして、真昼のお父さんにまで手を出しかけたのかは分からないけれど、少なくとも、真昼は藍二のことをちゃんと好きだったんだ。
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