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「自分の良いところ」ついての答えは見つからないままだけど来た道を戻って神社に向かった。  歩きながら考える。  最初に浮かんだ「いまを生きている」については自分でも分からないけど何かが違う気がするので、さっきのことを取り上げてみる。  乾に手を貸したけどそれについてはやっぱり犬だからこそ出来たことだと思う。同じクラスの人間として動いたわけじゃない。そうなると良いところは やっぱり「いまを生きている」になるんだろうか。  判断がつかない。一人で考えてもどうしようもないので、もうありのままを猫又に話すことにした。    神社に着き、中央を避けて鳥居をくぐった。 相変わらず静かで誰もいなかった。猫のいる気配もなかったけど、その代わりのようにカラスがいた。こちらを見て一鳴き。この前のカラスと同様であることに戸惑っていると、後ろから声が聞こえてきた。 「早かったな」 「……はい」  僕はカラスを気にしつつも、戻りたい一心で猫又に自分の考えとさっきの出来事を話した。 「助けたけど人として助けたわけじゃないんですよね。だから分からなくなって……」 「正直もんだな」 「じゃあそれが長所ってことで」 「じゃあ? そう簡単に済ませるな」猫又は僕の一言に呆れをみせた。「でも助けたことには変わりなかろう。ほとんど迷いなく植え込みに入ったんじゃからな」 「え、見てたんですか?」  全く気付かなかった。 「いや、頼んで見て貰ってた。そこの奴に」  猫又は言って少し離れたところで土をつついているカラスを目で示した。 「全然分からなかった。もしかしてずっと僕について来てた?」 「そうじゃ」 「何でそんなことを?」 「あまりにも頼りないから」 「それは……」  凹む。 「というのは冗談じゃ。いつも千里眼で見てアドバイスをしてたんじゃが、それも出来なくなってしまってな」  答えた猫又はどこか寂しげだった。 「え?」 「時間がないと言ったのはそういうことじゃ。猫又としての仕事もこれで最後」 「……何で最後が僕だったんですか?」 「偶然じゃ。けど儂が猫又だと認識できる奴は限られてる。おぬしには分かったってことじゃな」 「え? どんな人なら分かるんですか?」  信じられなくて前のめり気味にきいた。 「信心深いか先祖も同じだったかってところじゃ」猫又はゆったりとアバウトなことを言った。「ところで小さい頃のことは覚えてないか? よくここに来てたじゃろう。お祖母さんと」 「全然覚えてません。でもここへ来た時ちょっと懐かしいなって思いました」  視点が低くなった関係で無意識のうちにその頃のことを薄く思い出したのかもしれない。多分、と考え事をする間に猫又が質問を続けた。 「なら儂と会ったことも覚えてないか?」 「……そういえば、ここで猫を撫でたような気が」  何となく思い出してきた。 「他にもいる中で儂を選んでな。話もした」 「え?」 「やはり覚えてないか」  猫又は少し寂しそうに言った。 「すみません」 「いや良い。それよりもう猫になりたいとか言うなよ」 「えっと……はい」  答えた直後、急に視点が高くなって気付けば人に戻っていた。合図なしだったせいで四つん這い状態。周りに誰もいないことは分かっていたけど僕は慌てて立ち上がった。 「ありがとうご……」  礼を言おうとしたときにはもう猫又の姿が消えていた。カラスもいない。静か過ぎて取り残されたような気分になったけどあまり浸ってもいられない。僕はいま犬になる前の服を着ていた。つまりパジャマ。ぼんやりと長居をしているところ人に見られたら過剰に心配されてしまうだろう。余計な考え事をやめて神社を出た。
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