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マイナスさん(1)
今日、いつも通勤電車で一緒になる男性に声をかけられた。20代前半かな……ちょっと吊り目のいかにも若者代表って感じの人。私服だけど…大学生? フリーター?
……分からない。
「あ、どうぞ」って、席を譲られた。
何でだろう……そこそこ満員の車内。
さり気なくスムーズで言い慣れてる感じがした。
最初、私の後ろに高齢の方がいるのかと思って、チラチラと確認したけど、いなかった。
――私の表情が暗すぎて、具合悪そうに見えた?
昔から「今日、調子悪い?」ってよく聞かれてた。
……それなりに調子いいのに。
――もしかして妊婦だと思った?
ゆったりめのコートでお腹膨らんで見えたのかな……。
脱いだところで、そんなにスリムでもないけど。
――それとも何だろう……知らないうちに私が誰かの迷惑になっていて、彼が気を利かせて私を座らせることで、何か解決したのかもしれない。
「ありがとうございます」
なんて返しちゃったけど、彼も周りの人も「ありがとうじゃねーよ」って思ってたのかも……。
彼は席を譲った後、降りるでもなく、すぐ隣のドア付近にもたれかかっていた。
彼の背中が仕切り越しにある……寄りかかったりしないようにと緊張した。
また明日の朝も近くにいたらどうしよう。
分からないけど謝っておく?
いやいや、声をかけるのが、まず怖い。
私みたいなモブキャラにそんな勇気はないから。
見かけたら、さり気なく移動しよう。視界に入るだけで嫌かもしれないもの――。
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