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顔が見えないくらい伸ばした前髪。
もちろん気になったが……
それを問いかけられるほどこの人と親しくはない。
前髪のことは、一旦置いといて…。
「あの、僕のこと呼びましたか?」
一郎なんて名前、聞き間違うことはそうそうないだろう。
確かに名前を呼ばれたと思う。
確認という形で、僕はさっきと同じ質問を口にした。
「よっ、呼んでないですっ!!」
女の人は、ぶんぶんと首を左右に振って呼んでないことを全身でアピール。
………おかしいな?
一郎って呼ばれたと思ったんだけど……。
空耳か?
不思議に思っていると……
「わぉん!」
まろまゆが嬉しそうに一吠えして、もふもふの尻尾をふりふりしながら、僕の方へ寄ってきた。
「おー、まろまゆ、今日も元気だな。よしよし。」
いつものように手を伸ばして、まろまゆの頭をよしよしと撫でてやる。
もふりとした柔らかい毛の感触が、なんともいえない心地よさだ。
頭をクックッとすり寄せてくるものだから、可愛くてたまらない。
「……あの…、普段から……撫でてくれて……いるんです…か?」
女の人がおどおど、恐る恐るといった様子で口を開く。
……なんだか、警戒心丸出しな小動物みたいだな。
「あ、いけませんでした?」
少しでも和めばいいなと、僕はすっとぼけたような声色で、かるーく返事を返した。
「いっ……いえ…。そうじゃなくて……。とても懐いてる……みたいで……。」
ん?
まろまゆのことか?
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