名前は?

7/7
前へ
/7ページ
次へ
こんな偶然、あるものなんだなぁ。 ただでさえ可愛かったのに、同じ名前だと思うと、まろまゆの柴犬イチローが、ますます可愛く見えてくる。 もっとイチローと戯れたいところだか…… そろそろ仕事に戻らないと。 「では、僕、巡回の途中なので、これで失礼します。」 帽子をサッと脱いて、女の人に向かって一礼。 「…あ、…はい……。」と返してくれる女の人。 ふと、ここまでやり取りをしていたのに、女の人の名前さえ聞いていないことに気がついた。 「……飼い主さん、よければお名前を聞いてもいいかな?」 もしかしたら、これからイチロー繋がりで話したり、顔を合わすかもしれないし。 知らないより知っている方がいいだろう。 イチローの時のように、何ヶ月も名前が分からないままというのも嫌だし。 恐る恐る、ゆっくりと女の人は口を開いた。 「…は……原田…くるみ……。」 くるみさん。 ……いや、なんとなく年下っぽいし。 くるみちゃん……だな。 「くるみちゃん。可愛い名前だね。では!」 僕はニコリと微笑んで。 巡回で使っている自転車に乗ってイチローとくるみちゃんのお宅を後にした。 まさか、イチローがきっかけで出会ったくるみちゃんが、僕の大切な人になるなんて、この時の僕は考えもしなかったのだった。 END
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加